Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
 この日一番の大きな声を上げると、自分に圧しかかっていた体重が消えてふわっと軽くなる。
 身体を起こした永瀬が静かにじっと私を見下ろしている。その表情にさっきまでの怒りはこめられていなくて、むしろ少し寂し気に見える。

「強引にいけば押し通せると思ったけど、やっぱ、難しいよな」
「……え?」

 それって……結婚のことを言ってるんだよね?

「今まで困らせて悪かった」
「……え」

 ……なに?
 今まで困らせて悪かった? プロポーズをしたことから今までのこと? どうして、謝るの……? 私は……
 大きく息を吸って、声と共に自分の思いをすべて吐き出した。

「悩むのは当たり前じゃない!」

 離れて行ってしまいそうな気がして、腹筋を使って勢いをつけて起き上がるとそのまま永瀬の胸に倒れこむように頬をあてた。

「すぐに答えを出せないのは当たり前じゃない! 私にだって今の立場があって、生活があって……! だからすぐには仕事を辞めて、旅館に嫁ぐなんてこと決心できなくて……!」

 ほんとはずっと不安だった。永瀬のことは大好きなのに、先のことをあれこれ考えちゃうと怖くなって仕事を理由に考えることから逃げようとする自分がいた。このままじゃ結婚からも逃げちゃって、一生、後悔することになるんじゃないかって……

「なんで急に謝るのよ! 嫌だよ! いつもみたいに自己中を通してよ。強引に攫って田舎に連れて帰っちゃうくらいしてよ! 私を落とそうとしてきた時のようにギリギリまで追い込んでよ! ……そうじゃなきゃ、やっぱり一人じゃとても決心できない」
「それじゃあ……。 だって、おまえの意思は……」
「さんざん私の意思もなにもかも全部無視してきておいて今更それ言う!?」

 私の指摘に返す言葉を失う永瀬に向かって私は続けて言う。

「一緒にいて居心地がいいって言ってくれたよね。あれ、実は死ぬほど嬉しかった。一緒にいて楽しくて、きっと毎日笑っていられる。私だってそんな相手にこれから先出会える気がしないよ。私は……永瀬以外の人との未来は考えられないの!」
「……それはつまり?」
「私には永瀬しかいないの! だから……だから私と結婚してよ!!」

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