Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
 静まり返る部屋に私の最後の一声が響き渡る。
 ……今、私、なんて言った……?
 呆然としていると背中に回った手にぐっと引き寄せられて強く抱きしめられた。そして耳元で「うん」と言った。
 うん、と言うのは……何に対しての返事……
 声を大にして叫ばせていただきたい。

「ちがーーう!!!」
「まさかプロポーズされるとは……」
「なっ、なっ……」

 言ったことはすべて本心だけど、結婚しての台詞だけは取り消せないだろうか……!
 熱くなって軽いパニックに陥る私の頭を、抱きしめながら永瀬の手が優しく撫でる。

「さっきは……ごめん」

 突然の謝罪の言葉にさっと熱が引く。

「俺も不安だった。最初は自分の気持ちや事情だけを強引に押し付けておまえの気持ちをほとんど無視してたから。でもおまえの気持ちが分かってからはこのまま結婚まで押し通せると思ったけどよく考えてみたらそんなに簡単に答えが出せることじゃないよな。……だから、さっき他の男と一緒にいるとこを見たら不安が焦りになって……余裕がなかった。だから話も聞かず怒りをぶつけて」

 そして永瀬はもう一度「ごめん」と言った。
 別人みたいだ。素直に非を認めて謝るなんて……だって、いつも何をしても自分は悪くないみたいな態度を取る人なのに……。
 しばらくじっと永瀬の腕の中でその熱や匂いに包まれていた。自然とふっと小さな笑みが零れた。
 私たち大事なことを忘れているね。

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