Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
「でもまさか。永瀬君と」
「あのう……できればそれも小声でお願いできますか」
「二人、ケンカばっかしてた気がする」
「そうでしたっけ……。あんまり覚えないです」
「この間も、相変わらずケンカしていたみたいだったしね」
「は、ははっ……」
「でも、よかったね」
「よかった?」
「彼の事情を知って付き合っていると言うことは、近いうちに結婚も考えてるんでしょ?」
「まぁ……」
「おめでとう」

 まさかの祝福の言葉。イマイチまだピンとこないけど、この時、素直に頷くことが出来た。

「思い出すよ」
「え?」
「君たちが入社してきたばかりの頃を」
「それもあんまり記憶が……」
「はは。川島さん最初のうちはすごく大人しくていつも永瀬君の後ろに隠れていた気がする。彼、あぁ見えて意外と面倒見良いからね」
「そ、それって私が面倒見てもらってたってことですか!?」
「うん」
「う、嘘!」

 たしかに杉浦さんの部下として働いていたころの私は仕事に情熱も何もなくて、大人しく上から指示されたことだけをやる地味な社員だったかもしれないけど永瀬に世話になった覚えは……。
 脳裏に浮かびかけた思い出したくない昔の記憶にぞっとして慌てて振り払う。

「あ、川島さん。いたいた」

 名前を呼ばれて顔を上げると、直属の上司が目の前に立っていた。

「どうかしました?」
「さっき、社長が君のことを探していたよ」
「……え」
「急がないけど、今日一日社内にいるみたいだから手が空いたときに社長室まで来てって言ってたよ」
「な、なんで……」
「さぁ? 僕が分かるわけないよぉ。じゃ、ちゃんと伝えたからね!」

 用件だけを伝えると上司は立ち去って行った。

「社長? 何かしたの?」
「……まぁ、色々と」
「え?」

 杉浦さんは不思議そうな顔で言ったけど深くは追及してこなかった。
 その後早めに食事を済ませ、言われたとおり社長室へと向かった。

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