Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
「おつかれさーん!」
「やっと休みだよぉ……!」

 会社を出た時に今仕事が終わったとメールを送って、それを見てわざわざ連絡をくれたらしい。
 しゃべる気力もないほどに体力は限界のはずなのに、声を聞いたら一気に元気になる。私はもらった電話にも関わらず相手の用件も聞かないで一方的にまずは過酷な毎日に対する泣き言をぶつけた。不満をぶつけるだけで満足することを永瀬は十分分かっているから、まずは何も言わずただ無言で私の話を聞く。話し終えた私はすっきり大満足。すっきりしたところで「なんだった?」と用件を尋ねる。

「……雪、降り出したな」
「え……?」

 一瞬なんのことかと思ったけど、永瀬の実家でのことを言っているのかと思ったら納得。

「雪かぁ。きっとそっちは雪すごいんだろうね。いつも思うんだけど新幹線とかよく止まんないよね。こっちはちょっと雪が降っただけで大混乱になるのに。不思議ー。あ、久々の実家はどう? 楽しんでる? それとも……」

 電話をもらってから私ばかりがしゃべっているような気がして一度口を閉じる。自分がしゃべってばかりのせいもあるけど、まだ一言、二言しかしゃべっていない永瀬の口数の少なさに違和感を覚える。

「どうしたの? 今日静かだね」
「そう?」
「うん」

 話しながらそういえば寒いなと思ってエアコンのリモコンを探して部屋を見渡すと、窓際のカーテンが半開きになっているのが視界に入って移動する。

「……会いたいなぁ」

 電話だと面と向かって伝えるより何倍も簡単に素直な気持ちを言うことが出来る。でも返事がなくて照れくささに電話をしながらも顔が熱くなる。

「ちょっと!? 何か言ったら!?」

 勢いよくカーテンをしめながら声を大にして言う。

「……え?」

 一瞬、ありえない景色が視界に映った気がして再びカーテンを開けた。
 窓から見える景色に言葉を失った。まばらに降り出した細かい雪がふわふわと夜空を舞っていた。帰宅する時は降っていなかったのに……

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