Verbal Promise（口約束）～プロポーズは突然に～

「杉浦さんってまだ30くらいだろ？　男は30で結婚は早……」
「女は違うもん！　どうしよう……私30までに結婚できるかな？　30過ぎたら貰い手もいなくなって……ていうか何！？　まだ何年もつまんない仕事続けなくちゃなんないの！？」

　当時の私の考えは今考えると浅はかで幼稚だった。
　フラれたことも辛かったけど、それ以上に結婚を苦痛な毎日の逃げ道として考えていたところもあった私は急に恋人がいなくなって未来が真っ暗になったような感覚に陥っていた。
　永瀬に八つ当たりして詰め寄って。そんな私を永瀬は終始とても面倒くさそうにあしらっていたけど、突然何かを思い出したように「30歳か……」と呟やくと、変な提案をぶつけてきた。

「そんなに結婚したいなら。30になって、お互いフリーだったら俺たち結婚しようか」
「……は！？　や、やだよ、なんであんたなんかと……！」
「俺だっておまえなんかやだよ！」
「はぁ！？」
「もしも、の話だよ。おまえは30になってもフリーでいるつもり？　俺はないね」
「わ、私だって30まで独身でいるつもりはない！」
「じゃ、そういうことで。お互いがんばろうぜ～」
「お、おう！」

　この時は、永瀬なりに自分のことを慰めて元気づけてくれているだけだと思っていた。
　その後、杉浦さんの転勤と同時に私も異動で建築設計部の配属となった。毎日同じことの繰り返しのデスクワークから、設計士のサポート業務に変わると毎日が一変した。上司について現場に赴いたり、社外の人と接したり、毎日みんなで残業して協力し合って作り上げたプロポーサルが通った時は泣くほど嬉しくて、みんなと一緒に喜びを分かち合う。いつの間にか仕事にやりがいを感じるようになって、楽しくて、恋愛なんか二の次になっていった。
　そして気が付けば30歳目前。互いにフリー。条件がそろったところで突然の永瀬からのプロポーズ。
　永瀬はあの時交わした口約束を本気で真に受けているの？　杉浦さんとの結婚を「ただの口約束だろ？」って鼻で笑った永瀬が本気にしているとは思えない。
　一体全体、奴はどういうつもりなんだろう。