Verbal Promise(口約束)~プロポーズは突然に~
おまけ 妙な縁の女(永瀬視点)
「はぁぁ……憂鬱……」
隣でこっちまで憂鬱な気分になるため息をつく女。
妙な縁で入社前研修では席が隣、入社後の研修や工場見学ではグループが同じ。そして配属先まで同じになって今日で一週間。
川島綾、22歳。彼女についてそれ以外のことはまだよく分からないが、しばらく一緒に過ごして感じた彼女の印象と言えば……
「はぁぁ……」
また溜息ついてるぞ?
声を掛けてほしいのか? かまってほしいのか?
とりあえず、再び聞こえないふりをした。
大人しそうな外見のとおり性格は第一印象はとにかく暗かった。話しかけても一言だけの返事しか返ってこないし、目も合わせない。でも何度か顔を合わせているうちに笑うようになって、しゃべるようにもなって、目も時々合うようになって、今日はじめて昼に社食に誘って一緒に並んで楽しくランチ……というわけにはいかないようだ。
「永瀬君……今日の歓迎会、行かなきゃダメだよね?」
なるほど、そういうことか。どうやら今日の定時後の新入社員歓迎会に行きたくないらしい。
「そりゃあ。……一応俺たちが主役だし」
「それが嫌なんだよぉ……どうせまたみんなの前で自己紹介させられるんでしょう?」
「いいじゃん適当で」
「男の人たちばっかりだし……どうしよう、飲まされるのかな。私あまり飲めないのに」
「飲めないって言えばいいんじゃないの?」
「そんなこと許される!?」
「じゃあ欠席する?」
「もっと許されない! あぁっ」
……川島さんに対して本日一回目のイラつき。毎日顔を合わせているけど、こんなことの繰り返しだ。性格が自分とは真逆なんだろうな。
川島さんは両手で顔を抑えて俯いていて、この世の終わりかのようにどんよりと暗い空気を醸し出している。そんなに憂鬱にならなきゃいけないことなのか!? でも大げさな反応と仕草が見ていて面白いからイラつきながらも俺は彼女のことを嫌ってはいない。
「あ、そうだ」
「ん?」
「さっき杉浦さんっていう男の人に午後からおつかいを頼まれたんだけど」
落ち込んでいたかと思ったらころっと態度が変わり話題が移った。極度の人見知りというだけで、話せばそこらへんにいる女と対して変わらない。とりあえず、それが今現時点での川島さんに対する印象だ。
「はじめて話しかけられて緊張しちゃって……肝心の、おつかいの内容が頭に入ってこなくて」
「うん」
「……どうすればいいと思う?」
「もう一度聞けば?」
「えっ!! そ、そんなこと……」
「大丈夫! 許される!」
「……」
暗い表情で沈黙。たぶん、ただ自分から話しかける勇気がないだけだろう。
コイツ……こんなんでこれから先大丈夫なのか!? ていうかよく就職できたな!?
はぁと溜息をついて立ち上がった。
「しょうがないな。俺が聞く」
「永瀬君……!」
配属されて一週間。川島さんが場に慣れるまでの辛抱。同じ部署で唯一の同期だし少しくらい面倒を見てやろう。
「あ、ちょっと。どこ行くの!?」
「だから、聞きに」
「私まだ全部食べてない……!」
「じゃあ知ーらない」
「えぇ!!」
食べかけの料理が乗ったプレートを持って必死に追いかけてついてくる様子が、少しだけ可愛いかなと思った。どうするつもりなんだろう。事務所で食うのか? 可笑しくて吹き出してしまった。
「ねぇ永瀬君。今日の飲み会、隣に座ってもいい?」
「はいはい」
(おわり)
隣でこっちまで憂鬱な気分になるため息をつく女。
妙な縁で入社前研修では席が隣、入社後の研修や工場見学ではグループが同じ。そして配属先まで同じになって今日で一週間。
川島綾、22歳。彼女についてそれ以外のことはまだよく分からないが、しばらく一緒に過ごして感じた彼女の印象と言えば……
「はぁぁ……」
また溜息ついてるぞ?
声を掛けてほしいのか? かまってほしいのか?
とりあえず、再び聞こえないふりをした。
大人しそうな外見のとおり性格は第一印象はとにかく暗かった。話しかけても一言だけの返事しか返ってこないし、目も合わせない。でも何度か顔を合わせているうちに笑うようになって、しゃべるようにもなって、目も時々合うようになって、今日はじめて昼に社食に誘って一緒に並んで楽しくランチ……というわけにはいかないようだ。
「永瀬君……今日の歓迎会、行かなきゃダメだよね?」
なるほど、そういうことか。どうやら今日の定時後の新入社員歓迎会に行きたくないらしい。
「そりゃあ。……一応俺たちが主役だし」
「それが嫌なんだよぉ……どうせまたみんなの前で自己紹介させられるんでしょう?」
「いいじゃん適当で」
「男の人たちばっかりだし……どうしよう、飲まされるのかな。私あまり飲めないのに」
「飲めないって言えばいいんじゃないの?」
「そんなこと許される!?」
「じゃあ欠席する?」
「もっと許されない! あぁっ」
……川島さんに対して本日一回目のイラつき。毎日顔を合わせているけど、こんなことの繰り返しだ。性格が自分とは真逆なんだろうな。
川島さんは両手で顔を抑えて俯いていて、この世の終わりかのようにどんよりと暗い空気を醸し出している。そんなに憂鬱にならなきゃいけないことなのか!? でも大げさな反応と仕草が見ていて面白いからイラつきながらも俺は彼女のことを嫌ってはいない。
「あ、そうだ」
「ん?」
「さっき杉浦さんっていう男の人に午後からおつかいを頼まれたんだけど」
落ち込んでいたかと思ったらころっと態度が変わり話題が移った。極度の人見知りというだけで、話せばそこらへんにいる女と対して変わらない。とりあえず、それが今現時点での川島さんに対する印象だ。
「はじめて話しかけられて緊張しちゃって……肝心の、おつかいの内容が頭に入ってこなくて」
「うん」
「……どうすればいいと思う?」
「もう一度聞けば?」
「えっ!! そ、そんなこと……」
「大丈夫! 許される!」
「……」
暗い表情で沈黙。たぶん、ただ自分から話しかける勇気がないだけだろう。
コイツ……こんなんでこれから先大丈夫なのか!? ていうかよく就職できたな!?
はぁと溜息をついて立ち上がった。
「しょうがないな。俺が聞く」
「永瀬君……!」
配属されて一週間。川島さんが場に慣れるまでの辛抱。同じ部署で唯一の同期だし少しくらい面倒を見てやろう。
「あ、ちょっと。どこ行くの!?」
「だから、聞きに」
「私まだ全部食べてない……!」
「じゃあ知ーらない」
「えぇ!!」
食べかけの料理が乗ったプレートを持って必死に追いかけてついてくる様子が、少しだけ可愛いかなと思った。どうするつもりなんだろう。事務所で食うのか? 可笑しくて吹き出してしまった。
「ねぇ永瀬君。今日の飲み会、隣に座ってもいい?」
「はいはい」
(おわり)