無口な彼の、ヒミツと本心
高校生の芹沢くん
なんの変哲もない日常。
代わり映えのない景色の中に、彼は目立たないようにその日常の一コマに存在した。
「アサヒー。何してるの?帰るよ」
下校のチャイムが鳴ってすぐ、私は教室の窓辺でグラウンドを眺めて佇んでいる彼に目を奪われたまま時を止めていた
夕暮れの教室に残る彼の姿は、それが初めてだったからだ。
「あ、うん」
私は机から鞄を持ち上げると、呼ばれた教室の入口まで急いで走った
友達はもう廊下を先に歩きはじめていたから、私はバレないようにもう一度振り返って芹沢くんを見た
まだぽつぽつと何人かが残っている教室の窓辺で、彼の後ろ姿だけが切り取ったように浮かんで見えた
その、後ろ姿を見て
まだ、16歳だった私は、胸の奥がざわついたのを。
今でも、しっかりと覚えている。
< 1 / 63 >