朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
夏休みに入ったが,
朔と陽和の忙しさは
あまり変わらなかった。

由宇は,夏休みに入っても,
変わらず,保育園に通っている。

日中に部活をするこの時期,
朔は入試関係の事務仕事の
合間を縫って,
部活にも参加していた。

会うたびに,真っ黒に
日焼けしていく朔に,
陽和はドキッとしていた。


「なんか,朔ちゃん…
 また,焼けた…ねえ…」

「ん?まあな。
 毎日,外にいるしなあ…」

「そっか…」

そういって,ちょっとだけ
下を向いて,顔を赤くする
陽和を朔は不思議そうに
見つめる。

「…ど…どした…?」

「あ…いや…あの…
 ううん…なんか…
 ちょっと…ドキッと…
 …しちゃって…」

「え…?ど…どうして?」

朔は,陽和が顔を赤らめた
ものだから…びっくりして
そう聞いた。

「あ…ううん…」

「あんまり,日焼けしたの…
 いや?」

「…ううん,あの…
 …どちらかというと…
 好きよ…」

「へ?そうなの?」

陽和の意外な告白に,
朔はちょっとびっくりして
笑った。

朔があまりに笑うものだから
陽和はちょっと拗ねた。

「ごめんごめん。
 いや,意外だったんだよ。
 陽和…日焼けしたのが
 好きだなんて…」

「だって…
 …それは…
 さ…朔ちゃんの
 せいなんだよ?」

「え?
 俺…?」

朔は,また不思議そうな
顔で陽和の顔をまじまじと見る。

「だって…夏休み明けに,
 日焼けした朔ちゃんに
 会うのが…楽しみだったん
 …だもの…」

「あ…え…
 そ…そっか…」

また,思いもしない,
陽和の告白に,
朔は顔を赤くした。

「…俺…そんな風に…
 思ってもらってたん…
 …だな…。

 早く気が付けば
 …よかった…」

そう,後悔にも似た言葉を
発する朔に,
今度は陽和が笑った。

「だって…朔ちゃん…
 …ホントに…
 かっこ…よかったんだよ…?」

「…え…そんなことないよ…
 …でも…やばいな…
 めっちゃ…うれし…」

そういって我慢できなくなった
朔は陽和をぎゅっと抱きしめる。


夕飯が終わり,
由宇を寝かしつけた後,
いつものように,
ソファでコーヒーを飲む。

でも少しずつ…
2人の時間は変化を
見せている。

季節が夏になり,
アイスコーヒーに
変わったころから…

この時間は…少しだけ…
大人の時間になりつつあった。


朔は陽和に目をつむるように
促す。

陽和は…まだ…緊張した
面持で…
そっと目を閉じる。

唇をそっと重ね…
二人は見つめ合う。


朔はそっと,陽和の
長い髪をなでて
もう一度…
唇を重ねる。

「ん…」

陽和が声にならない声を
出すと…朔は,我慢できず
何度も何度も
口づけを交わした。


陽和は,顔を真っ赤にして
恥ずかしそうな顔をする。

「もう…」

朔はそのうるんだ瞳に
また興奮させられる。

「ごめ…ん…
 陽和…」

そういうと,朔は
今まで以上に…深い
口づけを交わす。

陽和はびっくりして,
一瞬目を開けると
目の前に見える朔の顔に,
倒れそうなくらいの
まぶしさを感じる。

朔は陽和をぎゅっと
抱きしめた後…

…ソファから立ち上がった。


「ご…ごめん…俺…
 あ…えっと…」

「え…あ…」

陽和は心臓が破れそうなくらい
鼓動が高まっている自分を
保つことで精いっぱいだった。

「だ…大丈夫…?」

「あ…うん…あ…」

息を整えているのに,
陽和の鼓動はさらに高まる。

「あ…謝らないで…
 …私…あの…
 大丈夫…だから…」

「え…あ…」

朔はさらに上気した顔で
陽和を見つめる。

「あ…や…あの…
 えっと…」

陽和も自分の口から出た
言葉に…戸惑っていた。

「あ…えっと…
 そ…そろそろ…
 送ろうか?」

「あ…そ…そうだね…」


陽和は服を整えて
次の日の朝ごはんのおかずを
冷蔵庫に入れる。

「いつも…ありがとな」

「あ…ううん…」

朔はにこっと笑う陽和に,
胸が苦しくなるくらい…
いとおしさを感じた。

そして…
いつか…
…陽和と一緒に…
朝食を食べたい…

…そんな思いが
沸いてきていた…。



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