朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
帰り道。

手をつなぐと,
お互いの思いがひしひしと
伝わってきてしまう。

朔は…
本当は…帰したくない…。
陽和を…
ずっと抱きしめていたい。

そう思っていた。

そして陽和も…。


だけど…お互い…
まだそんなことを
言い出すことなんて
できなくて…。

もどかしい思いを抱えながら,
駅へ向かった。



「あ,じゃあ,ここで」

「あ,ああ。
 いろいろありがとな」

「う,ううん…あの…
 …また…ね…」

「あ…ああ…」

朔は切ない表情で
陽和を見送る。

陽和が改札を抜けようと
したとき…

「あ…あの…」

朔はいつもより大きい声で
陽和を…呼び止める。


「え…」

陽和はその大きな瞳を
さらに丸くして振り返る。

「あ…いや…
 …えっと…
 …また…明日」

「あ…うん。
 おやすみなさい」


にこっと笑ったあと,
陽和は何度か振り返って
手を振りながら
改札の向こうへ消えていった。

朔は,挙げていた手を
ぎゅっと握りしめる。

 …今日は…帰らないで…
 なんて…まだ…
 言う勇気がない。

 …突っ走って
 陽和を傷つけたくない。

 …でも…本当は…
 ……朝まで…一緒に…
 …いたい…だなんて…。

 俺は欲張り…なのかな。

朔はそんなことを思いながら
帰路についた。


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