朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
夏休み中,ほとんど毎日,
陽和たちは夕方から
3人で過ごした。
3人で囲む夕食は,
毎日楽しくて…
朔は…こんな風に
毎日過ごすことが…
日常になってきている
ことに…どんどん
期待する気持ちが
高まっていることに
気が付いていた。
土日になると,
由宇を連れて,出かけた。
ある日は,ショッピング
モールに出かけ,
ある日は,由宇が見たがって
いた,映画に出かけ,
ある日は,プールにも
出かけた。
さすがに,陽和は
泳ぎはしなかったが,
朔の鍛えられた体を見て,
陽和が顔を赤くして
照れ笑いを浮かべているのを
朔はわずかだけ
感じていた。
周りから見ると,完全に
親子としか思えない…。
朔はだんだんと,
陽和と一緒にいることより
陽和と一緒に
いないことのほうに
違和感を感じていた。
夕食を終え,朔が寝た後,
2人でまったりと過ごす。
その時間は,日々…
濃厚な時間になっていく。
「陽和…」
朔はソファに座って
陽和を抱きしめる。
陽和は…昼間に見た
朔の姿を一瞬思い出して
耳を赤くした。
「…ん…?」
朔はわざとらしく
陽和の様子をうかがう。
「あ…いや…
…その…」
陽和はますます顔を赤くして
どう表現してよいかわからない
その気持ちを…
伝えることに戸惑った。
「さ…朔ちゃん…
…お…大人に…な…
なったんだ…なって…
思って…」
「え?あ…あ…
え…も…もう…」
今度は朔が照れてしまって
顔を赤くする。
「ひ…陽和…
あ…煽るな…よ…」
そういって,朔は
立ち上がって向こうを向いた。
朔は高まってしまった
鼓動を…どう抑えてよいやら
わからなかった。
「ちょっと…
風にあたってくる」
朔はそういって,
ベランダに出た。
8月に入り,夜風は
少しずつ心地よくなっていた。
朔は高ぶってしまった
気持ちを落ち着かせるのに
必死だった。
部屋に残った陽和は。
切ない思いを抱えていた。
陽和は,朔の気持ちが
痛いほどよくわかっていた。
朔ちゃんは私のことを
大切に大切にしてくれて
いる…。
だけど…
私たちだって…
25歳の男と女だ…。
そういう気持ちになるのは
自然なこと…。
私ですら…そんな風に思うのだ。
男である朔ちゃんは…
なおのこと…我慢しているはず。
私は…もう…
朔ちゃんの気持ちを…
受け入れたい…。
陽和はそんな思いで,
ベランダへと歩を進めた。
「はあ…」
朔は大きなため息をつく。
陽和のことが…
大好きで…
大切すぎて…
どう動いていいか
わからない。
そして…自分の経験のなさが
さらに足を引っ張っている。
こんなとき…どうすれば…
いいんだろうか…
朔が頭を抱えていると…
後ろからその背中に
そっと…温かさを感じた。
陽和は朔の大きな背中に
寄りかかって…
そのまま後ろから
抱きしめた。
「…陽和…」
お互いの体温が醸し出す,
そのほのかな温かさと,
夜風に涼しさが心地よくて
二人はしばらく
そのままで…いた。
朔は収まらない衝動と
戦いながらも…
踏み込もうとすればするほど
…自分は陽和を本当に
幸せにできるんだろうか…
そんな迷いがちらついて
先へと…進むことを
躊躇してしまう。
そんな揺れる気持ちを
知ってか知らずか…
陽和は思い切って…
…朔に伝える。
「朔ちゃん…あの…
…あの…」
「ん?」
「私…あの…
さ…朔ちゃんのこと…
ホントに…大好き…よ…」
「…陽和…」
朔は固唾をのむ。
「だから…その…
わたし…もう…」
朔は陽和がその次に
紡ぐ言葉を…恐れて…
話を遮った。
その言葉を聞いてしまったら…
もう…とてもとても…
自分を止められそうに…
なかった…。
「わ!おお,陽和。
そろそろ帰んないと!
電車,なくなっちゃうぞ」
「あ…あ…うん」
陽和は切ない表情で
朔を見つめた。
部屋に入り,
陽和は,帰り支度を始める。
心の中にもやもやしたものを
抱えながら。
「じゃ…行こうか?」
朔は眠っている由宇の様子を
ちらりと見た後,
そう言った。
陽和は…今日ほど,
自分の恋愛経験のなさを
恨んだことはなかった。
こんなとき,これまでの
経験があれば…きっと…
上手に…気持ちを
伝えることが…できたん
…だろうな。
でも…
「帰りたくない」なんて
恥ずかしくて…言えない。
そんな思いを抱えて
朔のほうを見上げる。
朔も陽和を見ながら…
同じ思いを抱えていた。
今日は…このまま…
なんて…
…言えない…よな…
ああ…俺って…やっぱり
臆病者…?
もう…陽和しか…
考え…られないのに…
駅に着き,改札の前で
いつものように
少しだけ話をする。
陽和は,「賭け」で
少しだけつないだ手に
力を込めてみた。
だけど…
朔はその手を…そっと
離した…。
「じゃ…じゃあまた,
明日」
朔のその何とも言えない
表情に…
陽和は切なくて
胸が締め付けられた。
「あ…うん。」
時刻は12時をまわり,
これが,陽和の家に向かう
終電だった。
「おやすみなさい」
陽和は朔のほうを
まともに見つめることすらできず
そっとつぶやいて
改札を抜けた。
「おやすみ…」
そっと手を振りながら,
朔は自分の気持ちが
収まらないのを感じていた。
陽和たちは夕方から
3人で過ごした。
3人で囲む夕食は,
毎日楽しくて…
朔は…こんな風に
毎日過ごすことが…
日常になってきている
ことに…どんどん
期待する気持ちが
高まっていることに
気が付いていた。
土日になると,
由宇を連れて,出かけた。
ある日は,ショッピング
モールに出かけ,
ある日は,由宇が見たがって
いた,映画に出かけ,
ある日は,プールにも
出かけた。
さすがに,陽和は
泳ぎはしなかったが,
朔の鍛えられた体を見て,
陽和が顔を赤くして
照れ笑いを浮かべているのを
朔はわずかだけ
感じていた。
周りから見ると,完全に
親子としか思えない…。
朔はだんだんと,
陽和と一緒にいることより
陽和と一緒に
いないことのほうに
違和感を感じていた。
夕食を終え,朔が寝た後,
2人でまったりと過ごす。
その時間は,日々…
濃厚な時間になっていく。
「陽和…」
朔はソファに座って
陽和を抱きしめる。
陽和は…昼間に見た
朔の姿を一瞬思い出して
耳を赤くした。
「…ん…?」
朔はわざとらしく
陽和の様子をうかがう。
「あ…いや…
…その…」
陽和はますます顔を赤くして
どう表現してよいかわからない
その気持ちを…
伝えることに戸惑った。
「さ…朔ちゃん…
…お…大人に…な…
なったんだ…なって…
思って…」
「え?あ…あ…
え…も…もう…」
今度は朔が照れてしまって
顔を赤くする。
「ひ…陽和…
あ…煽るな…よ…」
そういって,朔は
立ち上がって向こうを向いた。
朔は高まってしまった
鼓動を…どう抑えてよいやら
わからなかった。
「ちょっと…
風にあたってくる」
朔はそういって,
ベランダに出た。
8月に入り,夜風は
少しずつ心地よくなっていた。
朔は高ぶってしまった
気持ちを落ち着かせるのに
必死だった。
部屋に残った陽和は。
切ない思いを抱えていた。
陽和は,朔の気持ちが
痛いほどよくわかっていた。
朔ちゃんは私のことを
大切に大切にしてくれて
いる…。
だけど…
私たちだって…
25歳の男と女だ…。
そういう気持ちになるのは
自然なこと…。
私ですら…そんな風に思うのだ。
男である朔ちゃんは…
なおのこと…我慢しているはず。
私は…もう…
朔ちゃんの気持ちを…
受け入れたい…。
陽和はそんな思いで,
ベランダへと歩を進めた。
「はあ…」
朔は大きなため息をつく。
陽和のことが…
大好きで…
大切すぎて…
どう動いていいか
わからない。
そして…自分の経験のなさが
さらに足を引っ張っている。
こんなとき…どうすれば…
いいんだろうか…
朔が頭を抱えていると…
後ろからその背中に
そっと…温かさを感じた。
陽和は朔の大きな背中に
寄りかかって…
そのまま後ろから
抱きしめた。
「…陽和…」
お互いの体温が醸し出す,
そのほのかな温かさと,
夜風に涼しさが心地よくて
二人はしばらく
そのままで…いた。
朔は収まらない衝動と
戦いながらも…
踏み込もうとすればするほど
…自分は陽和を本当に
幸せにできるんだろうか…
そんな迷いがちらついて
先へと…進むことを
躊躇してしまう。
そんな揺れる気持ちを
知ってか知らずか…
陽和は思い切って…
…朔に伝える。
「朔ちゃん…あの…
…あの…」
「ん?」
「私…あの…
さ…朔ちゃんのこと…
ホントに…大好き…よ…」
「…陽和…」
朔は固唾をのむ。
「だから…その…
わたし…もう…」
朔は陽和がその次に
紡ぐ言葉を…恐れて…
話を遮った。
その言葉を聞いてしまったら…
もう…とてもとても…
自分を止められそうに…
なかった…。
「わ!おお,陽和。
そろそろ帰んないと!
電車,なくなっちゃうぞ」
「あ…あ…うん」
陽和は切ない表情で
朔を見つめた。
部屋に入り,
陽和は,帰り支度を始める。
心の中にもやもやしたものを
抱えながら。
「じゃ…行こうか?」
朔は眠っている由宇の様子を
ちらりと見た後,
そう言った。
陽和は…今日ほど,
自分の恋愛経験のなさを
恨んだことはなかった。
こんなとき,これまでの
経験があれば…きっと…
上手に…気持ちを
伝えることが…できたん
…だろうな。
でも…
「帰りたくない」なんて
恥ずかしくて…言えない。
そんな思いを抱えて
朔のほうを見上げる。
朔も陽和を見ながら…
同じ思いを抱えていた。
今日は…このまま…
なんて…
…言えない…よな…
ああ…俺って…やっぱり
臆病者…?
もう…陽和しか…
考え…られないのに…
駅に着き,改札の前で
いつものように
少しだけ話をする。
陽和は,「賭け」で
少しだけつないだ手に
力を込めてみた。
だけど…
朔はその手を…そっと
離した…。
「じゃ…じゃあまた,
明日」
朔のその何とも言えない
表情に…
陽和は切なくて
胸が締め付けられた。
「あ…うん。」
時刻は12時をまわり,
これが,陽和の家に向かう
終電だった。
「おやすみなさい」
陽和は朔のほうを
まともに見つめることすらできず
そっとつぶやいて
改札を抜けた。
「おやすみ…」
そっと手を振りながら,
朔は自分の気持ちが
収まらないのを感じていた。