朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
玄関のドアを開けて
陽和を中に入るように促す。

「おかえりなさい」

朔はわざとそういうと
玄関先で陽和を抱きしめた。

「さ…朔ちゃん…?」

「俺…ごめん…
 スマートなこと…
 何もできないから…

 もう…自分の気持ちに
 嘘は…つけない…」

「…うん…

 …あ…でもあの…
 あ…汗だくだから…

 シャワー…借りていい?」

「あ…ふふ…うん」

真顔でそういう陽和に
朔は可笑しくなって
そう応えた。


陽和がシャワーを浴びて
出てくると,
朔は,アイスカフェオレを
用意して,テーブルに
置いてくれていた。


朔は陽和の姿を上から下まで
ちらっと見た。

部屋着のロングの
ワンピースを着た陽和は
…朔にはたまらなく
かわいく見えた

化粧を落とした陽和の顔は,
いつもに増して童顔に見えた。

でも…凛として…
まるで透明なガラスのようだった。

何より…子どもの頃の
陽和の姿を彷彿させる。

朔は,あの頃の思いさえ
蘇ってしまって…
言葉を失った。



「お,俺も…
 シャワー…浴びてこよ…」

「あ…うん」

陽和はにこっと笑って
ソファーに座った。



朔は,眩暈がするほど
緊張していた。

今まで
自分の中で大切に大切に
したいという思いが
強ければ強いほど
陽和を傷つける結果に
なってきた。

 今日だって…
 本当はもう少し,
 スマートに彼女を
 引き留めることができたら…

 それでも彼女はいつも
 自分のことを
 好きでいてくれる。

 今日は…ちゃんと…
 自分の気持ちに…
 …素直に…

 きっと彼女は…
 受け入れて…くれる。


朔の気持ちが
今までと少し違うのは,
陽和と由宇と…3人で
重ねてきた時間の
おかげかもしれない。

今日,こんな風に
陽和と一緒にいることに
違和感を感じない。

むしろ…ずっと前から
そうだったように…
自然と…そこに
いてくれるように…
すら思う。


何より純粋に…
…子どものころのように…
とにかく陽和の
そばにいたい。
陽和に…触れたい…。
抱きしめていたい。

その気持ちを…
大切にしようと…決めて…
シャワールームを出た。



Tシャツに短パンで出てきた
朔に,今度は陽和が
赤い顔をする。

昼間に見た朔の鍛えられた
体をまた思い出していた。

今度は陽和が朔の
アイスコーヒーを入れて
ソファのところへ持ってくる。

「あ…ありがとう」

「う…うん」

照れている陽和の手を握って
ソファに座らせる。

しばらく見つめあった後
朔はボソッとつぶやく。

「す…すっぴんだよ…な?」

陽和は慌てて顔を隠す。

「や…恥ずかしい」

「いや…ごめん…ちがう…
 あの…かわいくて…
 俺……
 もっと…見せて…」

そういうと朔は
顔を隠していた陽和の手を
そっと外すように
両方握った。

朔は陽和の顔をまじまじと
見つめる。
陽和は,なおさら恥ずかしく
なる。

「もう…恥ずかしい…
 そんなに…見ないで…」

そんな陽和の様子に
朔は我慢できずに
ぎゅっと抱きしめる。

しばらくそのままで
朔はポツリとポツリと
話し始めた。

「俺さ…陽和を好きに
 なったとき…

 まだ1年生だったけど…
 胸がギュって締め付け
 られるような気がしたんだ。

 それは『キュン』なんて
 小さな音じゃなくて…

 痛みを感じるくらい…
 だった。」

「朔ちゃん…」

「今も…陽和と会うたびに
 …その気持ちが蘇るんだ」

そういって優しく笑う朔に
陽和の胸も苦しくなる。

「朔ちゃん…私ね…
 朔ちゃんのこと
 好きになってよかったって
 毎日…毎日…思うよ。

 朔ちゃんの…やさしさも
 強さもまじめなところも
 ちょっとだけ不器用なところも
 …全部…大好き…」

「陽和…」

朔は陽和を思いきり抱きしめた後
さらに口づけをした。

「俺も…
 陽和の…誰よりもやさしくて
 でも…ちゃんと強さもあって
 何より…かわいくて美しくて
 …何もかも…好きだ。

 だけど…」

「…だ…けど…」

朔はちょっとだけ
困った表情を浮かべた後,
キッと引き締まった表情を
して,陽和の目を見ながら
ゆっくりと…話した。

「もっともっと…
 陽和の…ことが…
 …その…

 …知りたい…」


そういうと,朔は陽和を
深く抱きしめた。

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