朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
昼間に泳いだからか,
それとも…別の原因か
わからないが,
朔は疲れてよく眠っていた。

陽和は,なかなか眠れず,
ただ…横で気持ちよさそうに
眠っている朔を見ると,
言葉にできないような
幸せを感じた。

平日なら,そろそろ
仕事に行かないといけない時間。

由宇が起きてくるかもしれない。

そう思って陽和は,
ベッドの横に置いていた
部屋着のワンピースに
再びそでを通した。


布団からそっと出て,
台所に向かう。

いつも置いてある
エプロンをつけて,
朝ごはんの用意を始める。

「しまった…
 材料…買っておけばよかった」

陽和は小さい声で呟いて
冷蔵庫を開けた。

冷蔵庫の中には,
かろうじて卵とウインナーが
入っていた。

「お弁当…用かな?」

野菜室には,きゅうりと
トマトとなすが…
申し訳程度に入っている。

「うーん…まあ,
 なんとかなるかな」

お米をといで,
ご飯を炊いて…
卵焼きとみそ汁と作って…

あるもので作った割には,
まあまあの朝食ができかけていた。

「わあ!いいにおい!」

そういいながら,
由宇が嬉しそうに部屋から
出てきた。

「あ…あれ…?
 ひよりせんせい?」

「あ…由宇ちゃん…
 お…はよう」

「おはようございます。
 せんせい,もうきてくれたの?
 ありがとう!」

由宇は弾んだ声でそう言うと
陽和は困った表情で答える。

「あ…いや…その…
 来たわけじゃなくて」

その会話が耳に入ったのか,
朔も目を覚ました。

朔が部屋を出ようとしたとき…
二人の会話にびっくりして…
部屋のドアの前で
立ち止まった。



「え?じゃあ,せんせい…
 ずっと,このおへやに
 いてくれたの?」

「あ…うん…」

「もしかして,せんせい,
 これからずっとここに
 いてくれるの?」

「あ…いや…あの…」

「わー!うれしい!
 ぼく,すごくうれしいよ!」

由宇の声は一段と弾み,
陽和は,うれしさと戸惑いで,
どう答えてよいかわからなかった。

朔はそんな二人の様子を聞いて,
少しだけ顔を赤くしながら
ドアを開けた。

「おはよう!」

「あ…おはよう…」
「おはよう!」

陽和は,昨夜のことが
あったからか,
今の会話を聞かれたと
思ったからか,
耳まで真っ赤にしながら
朔に挨拶をした。

「由宇…
 陽和がここにいてくれるの…
 うれしいか?」

「うん!もちろん!
 すっごいうれしい!」

「…そっか」

朔は少しほっとした表情で
そう答えた。
そして陽和のほうをちらっと見る。

陽和は目を潤ませながら
朔と由宇を交互に見ていた。

朔は,由宇と目線が合うように
かがんで,優しく語りかけた。

「あのな,由宇。
 陽和にもおうちがあるから,
 今すぐずーっとここにいる…
 わけじゃないんだ」

「なんだ…そっか…」

由宇はがっかりした声で
そういった。

「だけど…これから,
 時々…こんな風に…
 3人で,朝ごはん,
 食べることが…ある…と思う」

「うん!」

由宇は満面の笑みで答える。

そして,朔はちらりと
陽和のほうを見た後,
由宇の耳元でこっそり伝えた。

「俺たちの頑張りによっては,
 ずーっとここにいてくれる
 ことになるかもしれない」

「え!ホント!?
 やったあ!
 じゃあ,さくちゃん,
 がんばろうね!」

由宇がそういうと,
朔はにこっと笑って頷いた。

「え…ええ?
 な…何?何?」

陽和は,
2人の秘密話が
気になって
何度も聞いたけど,
どちらも教えてくれなかった。

「わー,和食の朝ごはんなんて
 久しぶりだなあ」

「あ…ごめんね…
 洋食…派だった?」

「ううん,いつもね,
 さくちゃんがねぼうするから,
 かっていたパンをたべるよ。

 ときどき,ゆでたまごが
 ついてくるの」

由宇が正直にそう話すから
朔は照れて笑った。

「わー,このなすのおみそしる。
 おいしいね」

「ホント?よかったあ」

「わ,由宇,この卵焼き
 食ってみ?
 超,うめえ」

「わ,ホントだ。
 おいしいっ!!」

「うれしい,ありがとう」

陽和はおいしそうに食べてくれる
2人を見て,うれしそうに
微笑んだ。

朝から,おかわりをして
食べる2人とは対照的に
陽和は食が進まない。

「陽和は?
 大丈夫か?」

「あ…うん。大丈夫。
 なんか…胸がいっぱいで…」

「え…?」

朔が驚いて,こちらを見たので,
陽和は,優しく微笑む。

「3人で,朝ごはん
 食べられる…日が来るなんて…
 私…うれしくて…」

そう言いながら,
涙を流す陽和を…朔は
心の底から…愛しく思った。

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