朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
金曜日。
夕方,朔と由宇は待ち切れずに,
園の近くに車を止めていた。

”園の先の交差点で,
 待ってるから”

そう,メールが来たのは,
由宇と朔を園で見送ってから
すぐのことだった。

「…も…もう…」

陽和は,困ったなあと
思いながらも,少しだけ
うれしかった。

陽和が仕事を終えて
出てきたのは,
それから30分後だった。

「ごめんなさい,遅くなって」

「ううん,ぜんぜん!」

朔より先に答えたのは
由宇だった。

「ごめん,朔ちゃんも」

「いや,勝手に俺と由宇が
 待ってただけだから」

そういうと,由宇がすかさず
答える。

「はやく,ひよりせんせいと
 おかいものにいきたかったの。
 あ,さくちゃんも,
 はやくあいたいって
 いってたよ」

「わ!もう!由宇!」

陽和はうれしそうに笑いながら
由宇の隣の後部席に座った。

「今日は…何にしようか?」

まず,陽和の家に
荷物を取りに行ったあと,
スーパーに行って買い物。

朔も由宇も陽和も…
本当にこの時間が楽しくて
仕方なかった。



由宇が寝た後,
陽和と朔は,
コーヒーを飲んでいた。

「陽和…?」

「…なあ…に…?」

「来て…」

そういって朔は,
陽和の手を取り,
自分の間に収める。

そして,
後ろからぎゅっと抱きしめる。

「陽和…」

「…朔ちゃん」

「なあ,怒らないで…
 聞いてくれる…?」

「え…なあ…に…?」

「俺…さあ…
 …あの…」

朔は顔を
赤らめながら…続ける。

「あの後…2回ほど
 夢に…見ちゃった…
 …この間の事…」

「え…や…やだ…もう…」

陽和も赤面する。

「ごめん…」

「ふふ…やだ…
 怒ってなんかないよ…?
 ただ…ちょっぴり
 恥ずかしいだけで…」

「そ…う…?」

「うん」

そういうと,朔は
ぎゅっと陽和を抱きしめる。

「俺…さあ…
 その夢…これまでも
 中学生のころから…
 何回も見ているん…だけど…」

「えええっ!!?」

「想像を遥かに超えてたな」

「え…?」

そういうと,朔は
陽和をひょいっと持ち上げて
ベッドへと運んだ。

朔は,この間と同じように
陽和をそっとベッドに降ろす。

「朔…ちゃん…」

朔の苦悶に満ちた表情に
陽和は切なくなる。

「陽和…あのさ…」

「うん?」

「俺…その…
 陽和のこと…ずっとずっと
 思い続けてきて…さ…」

「あ…うん…」

陽和はさっきの朔の台詞を
思い出して,少し顔を
赤くした。

「あの…えっと…
 その……」

朔は,恥ずかしそうに
陽和の方を見る。

「俺…あの…
 情けないんだけど…
 …苦し…く…て…」

「え…?」

そういって項垂れる朔に
陽和は驚く。

「情けないくらい…
 陽和のことが…
 …好きで好きで…
 …たまらなくて…」

「や…やだ…」

陽和は顔を赤くしながらも
少しだけ…うれしそうだった。

「だからさ…大切に…
 大切にしたい…
 …って気持ちと…

 …もう…この思いを
 体ごとぶつけてしまいたい…
 気持ち…と…」

「朔ちゃん…」

「交錯して…その…
 すごい…苦しい…」

そういって苦笑する朔の
気持ちは…本音なのだなと
陽和は悟る。

「朔ちゃん…あの…
 えっと…
 ど…どれだけ…
 あの…私で…受け止め
 られるか…わからない…
 けど…あの…
 …えっと…」

陽和は,どぎまぎしながらも
朔の思いを受け止めようと
必死で応える。

「あのね…
 私も…朔ちゃんのこと…
 …心の底から…あの…

 …愛してるから…

 あの…

 …朔ちゃんの…気持ちに…
 …こ…応え…たい…よ…?」

「…陽和…」

朔は陽和の覚悟に満ちた表情に
胸の苦しみをさらに覚えた。

だけど…
…その美しい表情に…もう…
気持ちを抑えることなんて…
…できそうになかった。

「ひよ…り…」

朔は陽和の体をゆっくりと
愛でていく。

陽和は,体の底から
湧き上る思いに…戸惑いながらも
朔にすべてを委ねる。

「陽和…好きだ…

 …もう…絶対に…絶対に…

 …離さないから…」


「朔…ちゃん…」

朔の情熱に…
陽和は圧倒されながらも
幸せに包まれていた。




「ひより…?」

何度も果てた後,
陽和の息は上がっていた。

「……や…や…っぱ…
 朔ちゃんの…
 …体力…を…
 あ…甘く…みてた…かも…」

陽和がそういうと,
朔は済まなさそうに
陽和の頭を撫でる。

「ご…ごめん…
 …き…きつ…いよ…な…」

朔は,恥ずかしくなって
困った表情をする。

「…う…ううん…あの…
 …わ…私も…ちょっと…
 …体力…つけな…きゃ…
 …かな…?」

「…え…?」

そんなことを言いだす陽和の
ことを,朔はたまらなく
可愛いと感じた。

「…馬鹿…」

「…ふふ…でもね…
 …あの…う…うれし…
 かったん…だよ…。
 朔ちゃんが…こんなにも
 私のこと…思って…
 …くれて…いるんだなって…
 わかったから…」

「…ひより…」

朔は,陽和の頭を撫でながら
その愛しい瞳にキスをする。

「…そうだよ…
 どんなに…表現しても…
 …間に合わないくらい…
 …陽和のことが…
 ……好き…だ…」

朔は涙声でそう…つぶやく。
その思いに陽和も
涙があふれる。

「…ありがとう…
 …私も…朔ちゃんのこと…
 ……ずっとずっと…
 好きだった…。
 でも…不思議なくらい…
 …前よりも…
 毎日毎日…どんどん…
 好きになって…る…」

「ひより…」

朔は,また陽和をぎゅっと
抱きしめた。

「…だめかも…」

「え…?」

「また…収まりが…つかなく…
 なって…きちゃった…
 陽和…もう…
 …しんど…いよ…な?」

「え…あ…え…っと…」

陽和は戸惑いながらも
朔から感じる興奮が
伝染してきているのを感じた。

「お手…やわらか…に…」

そうボソッとつぶやく陽和に
朔はニヤッと笑って…
再び二人は情熱の渦に
飲み込まれていった。


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