朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
「ひーちゃん!
 大丈夫…か…

 あ…」

「あ…」

振り返った朔の目に
入ってきたのは,
慌ててやってきた
公ちゃんの顔だった。

「…って…朔ちゃん,
 …ぶ…無事だったか…」

公ちゃんは
ホッとした顔と,
ちょっとあきれた顔をした。

「わ…こ…公ちゃん…
 どうして…」

「どうしてじゃないよ!」

その声に気が付いた陽和は
ハッとして朔から離れる。

「こ…公ちゃん…
 ごめんなさい!
 あ…ありがとう!」

そういってばつが悪そうに
公ちゃんを見上げた
陽和の顔を見て,
公ちゃんは…ちょっとだけ
まなじりを下げて笑った。

「…もう,朔ちゃん,
 ひーちゃんの心配用ったら
 …なかったよって…
 説明しようと思ったけど…
 …この顔を見ちゃったら
 まあ,…わかったか…」

陽和の涙にぬれた顔は,
どれだけ朔のことを心配して,
そして,愛しているかを
物語っているようだった。





少し落ち着いて
朔と公ちゃんは,
居間のソファに座っていた。

陽和はコーヒーを淹れて,
一緒に座る。

「一体,何があったんだよ?」

「ああ…えっと…
 ちょっと…さ,
 明日から…
 旅行に行くんだけど…」

朔は,公ちゃんに向けて
説明を始めた。

「ちょっとさ…えっと
 必要なものがあって,
 買い出しに行ってて…」

「え?そうだったの。
 何か必要なものがあったら,
 言ってくれたら
 買ってきたのに…」

陽和はすまなさそうな顔をした。

朔は,
「そういうわけには
 いかないよ…」
と思いながら,
陽和の方を見て首を振った。

「いや,いいんだ,
 俺が買ってきたかった
 ものだから」

「え…そ…そうなの?」

陽和は怪訝な顔をした
だけだったが…

そういうことに敏感な
公ちゃんは,朔が
大きな荷物を持って
いなかったことから
何を買ったかピンと来ていた。

「…で,急いで帰ろうと思ったら,
 路地のところで,
 担任してる生徒が
 自転車でよろめいて。

 そのときに,トラックが
 横をすり抜けたもんだから,
 ちょっと接触しちゃって」

「えっ!!
 そ…それは大変だったね」

「まあ,居合わせた関係上,
 放っておくわけにもいかなくて,
 親御さんが迎えに来るまで,
 病院に一緒にいたんだよ」

「そうだったのか…」

陽和も公ちゃんも納得した
様子だった。

「で,連絡とろうと思ったら,
 携帯の充電は切れちゃうし,
 陽和の電話番号もわかんないし。

 とりあえず,走って
 帰って来たって…感じ…」

朔は,また,ばつが悪そうな
顔をして,事の真相を話した。

「なるほど。
 まあ,よかったよ。
 朔ちゃんが無事で」

「その,生徒さんは
 大丈夫だったの?」

「ああ…うん,
 腕は,骨折してたん
 だけどな…」

「まあ…それは悪かったわね」

陽和は心配そうな表情を
浮かべた。

「それよりさ…
 そのふらふらしていた
 原因がさ…」

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