朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
温めたおでんを食べながら
朔は幸せに浸っていた。

「あー,あったかー
 うま―・・・」

「…よかった…朔ちゃん」

陽和の安堵しきった顔を見て
朔は,また切なくなった。

「ホントに,ごめんな。
 やっぱ,病院抜けてでも
 連絡するべきだったな…」

「ううん,大丈夫。
 生徒さんのことがあったん
 だもん,しょうがないよ」

「…実はさ,そいつ,
 恋煩いでさ,寝てなくて
 ふらふらしてたらしい」

「へえ…まあ…」

「俺さ,相談されてさ…
 前だったら応えることなんて
 全くできなかったけど…

 今は,なぜか,
 ちゃんとアドバイスできた…。

 陽和のこと,思いながら
 話したら,ソイツ,
 『ありがと』って言ってた」

「…朔ちゃん…」

朔は,優しい笑顔で
陽和に伝える。

「俺のさ,恋愛経験は,
 全て…陽和とのことだけど…
 …なんかさ…俺の中で
 ブレないものが,
 見つかった…感じが
 してるんだよ…」

「…ブレ…ない?」

「陽和のおかげ…」

陽和はちょっと不思議そうな
顔をしたけれど,
嬉しそうにほほ笑んだ。

「私も…今日ね…
 今まで…以上に
 実感した…。

 私…朔ちゃん無しでは
 何にもできないんだなって」

「陽和…
 そんなこと…」

「…だけど…
 それって…
 情けなくて,頼りないかも
 しれないけど…

 …その…それだけじゃなくて…

 …わ…私…」

陽和は頬を赤く染めながら
少し視線をそらして
つぶやいた。

「朔ちゃんのこと…
 …自分の…命を投げ出して
 いいくらいに…
 …大切で…大好きだって…
 …わかった」

「え…陽和…」

陽和は恥ずかしそうに
台所で背中を向けながら
続けた。

「神様に祈っちゃった。

 私の命をあげてもいいから
 どうか,朔ちゃんを
 無事に返してくださいって…」

「陽和…」

朔は…陽和の…
可愛さとその…強さに
圧倒されながらも
愛しくて仕方なかった。

たまらなくなって,
後ろからギュッと抱きしめる。

「それだけは…勘弁してくれ。
 俺,陽和がいないなら
 生きている意味がない。

 陽和がいないなんて
 もう…考えられないんだ。

 ホントは,永遠に
 このまま抱きしめていたい
 くらい…陽和が…好きだ。

 心配かけて…ごめんな。
 だけど,俺は,
 何があっても陽和のもとに
 帰って来るよ。

 絶対に陽和のそばにいる」

朔は,零れ落ちそうな涙を
堪えながら,そう…
強く言った。
< 142 / 154 >

この作品をシェア

pagetop