朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
「陽和と普通に話したいな」 5年生の朔と陽和
その後も
朔と陽和はずっと
同じクラスだった。
だけど,
「あの日」を境に
陽和は朔のことを
ずっと避け続けていた。
本心は・・
少しは話したいと
思っていたけれど,
朔の前に出ると
あの日のことを
思い出してしまって
足が震え言葉が
うまく出て来なかった。
陽和は自分は
朔のことが
本当に好きなのだろうか,
朔のことを怖いと
思っているのだろうか
それとも・・・
と朔へ気持ちを
自分でも整理できずにいた。
朔はというと,
あの日以来陽和に
明らかに避けられている
ことにショックを受けていた。
自分がしてしまった
ことへの後悔と
それでも・・・
募り続ける陽和への
思いに・・朔もまた
苦しめられていた。
5年生になった二人は
2学期の初めの席替えで
また隣同士になった。
朔は,これは
神様がくれたチャンスだ!
とまた思い込んで
行動に出ようと思っていた。
そのころサッカーを
始めていた朔は,
夏休みの練習で
真っ黒に日焼けしていた。
陽和は夏休み明けに
そんな朔の顔を見て
自分の顔がどんどん
熱を帯びていくのを
感じていた。
・・・やっぱり
かっこいいな・・
朔ちゃん。
話しかけることすら
できなくなった自分が
悔しかった。
陽和もまた,
隣同士の席になれたことを
内心とても喜んでいた。
それでも陽和は
右隣に朔を感じるたびに
足が震え,
顔が赤くなった。
鼓動が早まって
こんなことが毎日続いたら
心臓がどうにか
なってしまうのではないかと
思うほどだった。
そして・・・やっぱり私は
朔のことが好きなんだと
強く思い知らされた。
朔は,相変わらず
話しかけてくれない陽和に
どうしたらいいか
戸惑っていた。
朔の性格上
押してしまいたい気持ちが
強かったけれど・・・
前回のこともあるし,
陽和の性格上,
それはやめておいた方が
よさそうな気がしていた。
これ以上陽和が
自分から離れていくのは
耐えられないと思った。
ある日の社会の時間。
グループで新聞を
作ることになった。
隣同士の朔と陽和は
もちろん同じグループだった。
4人組で話合いをしながら
新聞を作る。
なかなか前に向いて進まなかった
朔たちのグループは
放課後に残って
新聞を作ることにした。
床に模造紙を広げて
それぞれの担当のところを
清書する。
朔と陽和の担当部分は
隣同士だったけれど
陽和は,自分は間違えたら
嫌だから他の紙に書いて
あとから貼り付けるといって
少し離れた場所で
記事を書いていた。
朔は,きっと自分と
隣り合わせで作業するのが
嫌なんだろうなと
内心思っていた。
陽和は陽和で,
朔の隣で作業なんて
ドキドキしてとてもじゃ
ないけれど心臓が
持たないと思ったから
そうしたのだ。
一緒に作業をしていた
武春が朔に何気なく聞いた。
「そういやさあ,
朔ちゃんとひーちゃんって
あんまり話しないよな?」
「あ・・ああ・・・。」
朔はそっけなく
そう答えた。
陽和は遠くから
その様子を耳を欹てて
聞いていた。
「喧嘩でもしたの?」
「え・・・いや,別に。」
朔は,心の中で
その逆だって
叫んでいた。
俺は陽和のことが
好きだって・・・
その時に叫んでしまえば
よかったのかもしれない。
そう後悔しても
発した言葉はもとには
戻らない。
朔は陽和の方を
ちらっと見ると
陽和と一瞬目が
あったような気がしたが
すぐに陽和は
目を伏せてしまった。
その後も4人は
黙々と作業を続けた。
5時が近くなり,
そろそろ今日の作業は
切り上げることに
決めた。
武春ともう一人の女の子は
マジックとものさしを
職員室に返しに行った。
朔と陽和は教室の中を
片付けていた。
黙々と作業をしていた
陽和に対して,
朔は,今二人きりだという
ことに気が付き,
決意をしていた。
今しか・・・
陽和に話しかける
チャンスは・・・ない。
「陽和!」
朔は陽和の方を向いて
大きな声で彼女の名前を
叫んだ。
陽和は一瞬
ビクッと体を震わせ
目を大きく見開いて
朔の方を見た。
「あの・・・さ・・
いろいろごめん。」
朔は頭を掻きながら
陽和に謝ってきた。
陽和は
何か言わなきゃ
と思ったが言葉が
出て来ない。
「あ・・いや・・
その・・・
嫌な思い・・・
させてしまった・・・
かなって・・?」
そういって陽和の方に
歩み寄って来る朔に
陽和は申し訳なさで
いっぱいだった。
陽和は精いっぱいのしぐさで
朔の謝罪を否定しようと
首を横に振り続けた。
「ごめんな。
だけど,
陽和と話ができないは
嫌なんだ。俺。」
朔からしたら
それは一世一代の
告白とも呼べる
台詞だったけれど
陽和はそこまでの
受け止めではなかった。
それでも,
その言葉に申し訳なくて
でも嬉しくて
口を押えたまま
気が付いたら涙が
流れていた。
「ごめんな。ホント。
仲直り,してくれる?」
朔は右手を差し出した。
別に喧嘩をしていた
わけじゃないよね?
って陽和は思っていた。
それどころか
朔ちゃんはずっと
優しかったのに・・・
私はドキドキしていたのに・・・
陽和はいたたまれない
気持ちのまま立ち尽くした。
「あ・・・えっと
握手しか・・しないから
安心して。」
そういって照れて
笑う朔の顔は
陽和には眩しく見えた。
その言葉がうれしいような
あの頃よりも少し
距離ができてしまったことを
表しているようで
淋しいような
・・・だけど
ここしばらく
話ができなかった朔と
久しぶりに持てた交流に
やっぱり陽和の心は
ときめいていた。
そっと手を出すと
朔はギュッと握ってくれた。
「陽和とふつうに
話したいな。」
「・・・・。」
やっぱり言葉がうまく
出て来なかったけれど
陽和は力いっぱい
頷いた。
そうしているうちに
武春たちが教室へ戻って来る
足音がした。
慌てて手を引いた陽和に
朔はちょっとはにかんで
「タケたちには内緒な。」
と笑った。
その日をきっかけに,
陽和は少しずつ
朔との距離を
縮めることができた。
すぐには話せるほどには
ならなかったけれど・・・
ドキドキする気持ちを
隠しながらも
ゆっくりとゆっくりと
朔に歩み寄ることができた。
朔と陽和はずっと
同じクラスだった。
だけど,
「あの日」を境に
陽和は朔のことを
ずっと避け続けていた。
本心は・・
少しは話したいと
思っていたけれど,
朔の前に出ると
あの日のことを
思い出してしまって
足が震え言葉が
うまく出て来なかった。
陽和は自分は
朔のことが
本当に好きなのだろうか,
朔のことを怖いと
思っているのだろうか
それとも・・・
と朔へ気持ちを
自分でも整理できずにいた。
朔はというと,
あの日以来陽和に
明らかに避けられている
ことにショックを受けていた。
自分がしてしまった
ことへの後悔と
それでも・・・
募り続ける陽和への
思いに・・朔もまた
苦しめられていた。
5年生になった二人は
2学期の初めの席替えで
また隣同士になった。
朔は,これは
神様がくれたチャンスだ!
とまた思い込んで
行動に出ようと思っていた。
そのころサッカーを
始めていた朔は,
夏休みの練習で
真っ黒に日焼けしていた。
陽和は夏休み明けに
そんな朔の顔を見て
自分の顔がどんどん
熱を帯びていくのを
感じていた。
・・・やっぱり
かっこいいな・・
朔ちゃん。
話しかけることすら
できなくなった自分が
悔しかった。
陽和もまた,
隣同士の席になれたことを
内心とても喜んでいた。
それでも陽和は
右隣に朔を感じるたびに
足が震え,
顔が赤くなった。
鼓動が早まって
こんなことが毎日続いたら
心臓がどうにか
なってしまうのではないかと
思うほどだった。
そして・・・やっぱり私は
朔のことが好きなんだと
強く思い知らされた。
朔は,相変わらず
話しかけてくれない陽和に
どうしたらいいか
戸惑っていた。
朔の性格上
押してしまいたい気持ちが
強かったけれど・・・
前回のこともあるし,
陽和の性格上,
それはやめておいた方が
よさそうな気がしていた。
これ以上陽和が
自分から離れていくのは
耐えられないと思った。
ある日の社会の時間。
グループで新聞を
作ることになった。
隣同士の朔と陽和は
もちろん同じグループだった。
4人組で話合いをしながら
新聞を作る。
なかなか前に向いて進まなかった
朔たちのグループは
放課後に残って
新聞を作ることにした。
床に模造紙を広げて
それぞれの担当のところを
清書する。
朔と陽和の担当部分は
隣同士だったけれど
陽和は,自分は間違えたら
嫌だから他の紙に書いて
あとから貼り付けるといって
少し離れた場所で
記事を書いていた。
朔は,きっと自分と
隣り合わせで作業するのが
嫌なんだろうなと
内心思っていた。
陽和は陽和で,
朔の隣で作業なんて
ドキドキしてとてもじゃ
ないけれど心臓が
持たないと思ったから
そうしたのだ。
一緒に作業をしていた
武春が朔に何気なく聞いた。
「そういやさあ,
朔ちゃんとひーちゃんって
あんまり話しないよな?」
「あ・・ああ・・・。」
朔はそっけなく
そう答えた。
陽和は遠くから
その様子を耳を欹てて
聞いていた。
「喧嘩でもしたの?」
「え・・・いや,別に。」
朔は,心の中で
その逆だって
叫んでいた。
俺は陽和のことが
好きだって・・・
その時に叫んでしまえば
よかったのかもしれない。
そう後悔しても
発した言葉はもとには
戻らない。
朔は陽和の方を
ちらっと見ると
陽和と一瞬目が
あったような気がしたが
すぐに陽和は
目を伏せてしまった。
その後も4人は
黙々と作業を続けた。
5時が近くなり,
そろそろ今日の作業は
切り上げることに
決めた。
武春ともう一人の女の子は
マジックとものさしを
職員室に返しに行った。
朔と陽和は教室の中を
片付けていた。
黙々と作業をしていた
陽和に対して,
朔は,今二人きりだという
ことに気が付き,
決意をしていた。
今しか・・・
陽和に話しかける
チャンスは・・・ない。
「陽和!」
朔は陽和の方を向いて
大きな声で彼女の名前を
叫んだ。
陽和は一瞬
ビクッと体を震わせ
目を大きく見開いて
朔の方を見た。
「あの・・・さ・・
いろいろごめん。」
朔は頭を掻きながら
陽和に謝ってきた。
陽和は
何か言わなきゃ
と思ったが言葉が
出て来ない。
「あ・・いや・・
その・・・
嫌な思い・・・
させてしまった・・・
かなって・・?」
そういって陽和の方に
歩み寄って来る朔に
陽和は申し訳なさで
いっぱいだった。
陽和は精いっぱいのしぐさで
朔の謝罪を否定しようと
首を横に振り続けた。
「ごめんな。
だけど,
陽和と話ができないは
嫌なんだ。俺。」
朔からしたら
それは一世一代の
告白とも呼べる
台詞だったけれど
陽和はそこまでの
受け止めではなかった。
それでも,
その言葉に申し訳なくて
でも嬉しくて
口を押えたまま
気が付いたら涙が
流れていた。
「ごめんな。ホント。
仲直り,してくれる?」
朔は右手を差し出した。
別に喧嘩をしていた
わけじゃないよね?
って陽和は思っていた。
それどころか
朔ちゃんはずっと
優しかったのに・・・
私はドキドキしていたのに・・・
陽和はいたたまれない
気持ちのまま立ち尽くした。
「あ・・・えっと
握手しか・・しないから
安心して。」
そういって照れて
笑う朔の顔は
陽和には眩しく見えた。
その言葉がうれしいような
あの頃よりも少し
距離ができてしまったことを
表しているようで
淋しいような
・・・だけど
ここしばらく
話ができなかった朔と
久しぶりに持てた交流に
やっぱり陽和の心は
ときめいていた。
そっと手を出すと
朔はギュッと握ってくれた。
「陽和とふつうに
話したいな。」
「・・・・。」
やっぱり言葉がうまく
出て来なかったけれど
陽和は力いっぱい
頷いた。
そうしているうちに
武春たちが教室へ戻って来る
足音がした。
慌てて手を引いた陽和に
朔はちょっとはにかんで
「タケたちには内緒な。」
と笑った。
その日をきっかけに,
陽和は少しずつ
朔との距離を
縮めることができた。
すぐには話せるほどには
ならなかったけれど・・・
ドキドキする気持ちを
隠しながらも
ゆっくりとゆっくりと
朔に歩み寄ることができた。