朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
陽和は回想しながら
朔の話を芽衣子にした。

朔との出来事を
人に話したのはほぼ
はじめてだった。

「なるほど・・・。」

陽和はそっと
芽衣子の顔を伺った。

芽衣子は目を瞑ったまま
深くうなづいていた。

「あの・・・
 めい子せんせ・・・?」

「・・・うーん・・。
 やっぱり聞けば聞くほど
 ・・・朔ちゃんだっけ?
 陽和ちゃんのことが
 好きだったんだろうなって
 思うんだけどさあ・・・。」

「あ・・・はい・・・。」

「うーん・・・ぶっちゃけ
 陽和ちゃんはどうなの?」

「え・・・あの・・・
 そうですねえ・・・
 好きだった・・・
 ですよ・・・私も。」

陽和の返答を聞いて
芽衣子は少し
眉間にしわを寄せて
こういった。

「小学生のころ・・・はでしょ?
 じゃなくて・・今は?」

「・・・い・・・今・・・
 ですか・・・?」

陽和は戸惑っていた。

そんなことを聞かれるとは
思いもよらなかったから。

陽和は答えようとして
・・・言葉が出て来ない
自分に気が付いた。

普通なら,
「小学生の時のいい思い出です。」
と答えるのだろう。

陽和もそう答えようと思った。
だけど・・・
そう答えてしまっては
いけないような・・
気がしていた。

そう答えることで
全て終わってしまうことに
なってしまいそうで・・・

そして・・・
どうしてかわからないけれど,
それは「嘘」のように
思えたから・・・。

「あの・・・えっと・・・。」

「なんか・・・陽和ちゃんの 
 話聞いてると・・・

 それって『思い出話』なの?
 って気がしてくるんだけど。」

「え・・・。」

芽衣子はニコッと笑って
陽和に問いかけた。

「それは現在進行形の
 話ではないのよね?」

「え・・・・!?」

陽和はゴクリと唾を飲み込んだ。

芽衣子に言われて・・
ハッとした。

自分の気持ちを
振り返ってみると・・・
朔への思いって・・・
あのときのまま・・・
凍ってはいるけど・・・
消えてはいない気がした。

「・・・うーん・・・。」

陽和は,また考え込んでいた。

その様子を見て
芽衣子は苦笑いしながら
こういった。

「・・・結論が出ないってことは
 やっぱり・・・
 まだその時の気持ち・・
 消えてないんじゃないかな?」


「・・・え・・・あ・・・
 そう・・・なんですかね。

 ホントに・・・自分でも
 よくわからないんです。」

陽和は芽衣子に正直な気持ちを
話した。

「私は,無理にその気持ち,
 抑えてしまうことないと
 思うんだけどな・・・。」

「・・・。」

陽和は自分の気持ちに
戸惑っていた。

 たとえ,そういう気持ちが
 あることを認めたとして・・
 じゃあ・・・どうしたら
 いいんだろう。

 今,朔ちゃんに会いに行くなんて
 手段もないし・・・。

いつか会えたら・・・とは
いつも思ってきた。
だけど,それは,
「会えたらいいな」という
だけのことで・・・。

小学生の頃から逢っていない人に
今でも好きだなんて言っても
困るだろう・・・。

陽和はそう思っていた。

「まあ,焦ることないって。
 いつか・・・恋に堕ちるわよ。
 それは,朔ちゃんかもしれないし,
 全く別の誰かかもしれないけど。」

「・・・そ・・・そうですね。」

陽和は芽衣子の言葉を胸に
刻んでいた。

たぶん・・・朔と恋に堕ちるなんて
ことはきっとないだろう。

でもきっといつかどこかで
逢いたい・・・。

そして,そのときには,
私もきっと
幸せになっていたい。

そんな風に陽和は
朔のことを心の片隅に
そっとしまいながら
・・・思っていた。
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