朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
「朔ちゃんは
 どういう感じの人が
 タイプなのかな?」

「え?」

朔はそういわれて
パッと頭に陽和の顔が浮かんだ。

そんな自分が恥ずかしくて
自分の顔が赤くなるのを
感じた。

そんな様子を見て
今度は中村先生が
吹き出した。

「もう・・・
 朔ちゃんわかりやすいなあ。

 誰か意中の人が
 いるんじゃないの?」


「は?え?いや・・・?」

取り繕おうと思っても
中村先生の前では
難しい・・・。

そうしているうちに
チャイムが鳴る。

朔はまた,
「ナイスタイミング」と
心の中で喜んだが・・・。

「ふふ・・
 今度こそ逃がさないわよ~!

 今日のお昼は
 ここでランチ決定!」

「え~!
 まじっすか・・・?」

中村先生の方が
一枚上手だった。



昼休憩になり
朔は保健室に
弁当を抱えてやってきた。

保健室からは男子生徒の
声がする。

「お邪魔しまーす。」

中に入ってみると
数名の生徒がいた。

「おう,どしたの,
 おまえら。」

座っていたのは
3年生の男子たちだった。

「あ~,朔先生。
 いや…別に。」

なんとなくうなだれていた
一人の生徒が口ごもる。

「こいつ,昨日
 彼女とケンカして
 『別れる』っていわれて
 めっちゃへこんでんすよ。」

「え~,そりゃ
 穏やかじゃないなあ。」

すると,うなだれていた
その生徒は,
愚痴をこぼしはじめた。

「だって,原因は
 向こうなんすよ,
 なのになんで別れなきゃ
 いけないんだか
 さっぱりわかんなくて。」

「そうかあ。」

朔は弁当を広げながら
そうつぶやいた。

「いいよなあ,朔先生は。
 イケメンだし,
 百戦錬磨でしょ?」

「は?何が?」

「何気に手作り弁当 
 広げちゃって・・・。

 それ彼女の手作りっすか?」

「は?」

朔は何のことやら
さっぱりわからなかったが,
ついこの間の
体育教官室での倉田先生の
反応を思い出して納得した。

「あ・・・これか?
 これはちがうって。」

「あ?お母さんですか?」

「いや・・・
 これは・・・
 自分で作ったんだけど・・・。」

「えええっ!!?」


周りの男子たちもそろって
同じ驚きの声を上げた。

「え?そんなに不思議?」

「朔先生,『弁当男子』
 なんすか?」

「え・・・なんじゃそれ?」

その様子を見ていて
中村先生はずっと笑っていた。

「だめよみんな,
 わかったでしょ。
 朔ちゃんはこういう人なの。」

「は?」

「だから,朔ちゃんに
 恋愛相談しても無駄~。
 ホント,そういう感覚
 ないんだから~!」

「え?」

そう中村先生が言うと
生徒たちはドッと笑った。

「…どういう意味っすか?」

朔はちょっとイラッとしながら
中村先生をにらむ。

「ごめんごめん。」


その後,男子生徒たちと
昼食を共にしながら
さっきの生徒の話を聞いた。

主にアドバイスしたのは
やっぱり中村先生で・・・

朔は「ふんふん」と
頷きながら,完全に
聞き役に回っていた。


昼休みも終わりに近づき・・・

「あー,でもなんか
 すっきりしたわー。
 先生,やっぱ俺,
 もう一回アイツと
 ちゃんと話してくるわ。」

「うん,そうだねえ。
 それがいいかもねえ。」

中村先生はにっこり笑って
そう返した。

「やっぱ先生に話したら
 なんか考えがまとまるわ。
 ありがと~。」

「いいえ,いつでも
 いらっしゃい♪」

中村先生は
笑顔で生徒たちを送り出した。




「やっぱすごいっすねえ・・・
 先生。」

朔は感心しきった顔で
そう言った。

「そうかしら~?
 まあ,少なくとも
 朔ちゃんよりは
 『恋愛経験』はあるからねえ。」

この秋にはおばあちゃんになる
予定の中村先生から
発された「恋愛経験」という
言葉に朔は苦笑いした。


「ところで,朔ちゃんの話が
 できなかったわねえ・・・。」

「あ・・・そう・・・
 っすねえ・・・。」

「5限は?」

「・・・・空いてます・・。」

そういってばつが悪そうな
顔をする朔に
中村先生は笑顔で返した。

「素直でよろしい。」

そういってクスクスと笑いながら
またコーヒーを淹れてくれた。

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