朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
朔は・・・


陽和がニコッと
笑顔を返してくれたことで・・

舞い上がってしまいそうな
気持ちになっていた。




ドン!



思いっきりドアにぶつかる。

「何やってんすか?
 朔先生。」


周りにいた生徒が
クスクスと笑っていた。


朔は顔を赤くして
玄関を通過した。

玄関横の保健室から
顔をのぞかせていた
中村先生は確信していた。

「・・・今日も
 何かあったわね・・・

 朔ちゃん・・・。」


朔は一刻も早く,
中村先生に話を聞いて
もらいたかったという
思いをもっていたものの・・

この日
出張の入っていた朔は,
保健室に出向く時間もなく
昼前に学校を後にした。






市役所に出張していた朔は
帰りに保育園に
由宇を迎えに来た。

今日こそは・・
陽和に逢える。

そう思っていつもより
少し早く園へ来た。

だけど,それがかえって
仇になって・・・

すみれ組にもまだ
子どもたちがたくさん
残っていた。

「そ・・うだよな・・。」

朔は,自分の間抜けな
行動に苦笑しながらも
すみれ組の方を見た。

陽和は・・・
気まずそうな顔を
朔に向けた。

まだ,保護者との対応中。
陽和は,表に出てくる
こともできずにいた。


「あ!さくちゃんだ!」

今日は早めに迎えに行くと
伝えていたので,
由宇はいち早く朔を見つけ
飛びついてきた。

「お・・・おう,
 由宇,おまたせ。」

朔はいつものように由宇を
肩にヒョイと乗せる。

陽和に目を向けると
陽和はすまなそうに
ペコリと頭を下げた。


 ・・・今日は無理・・だな。


朔は,今日も陽和と
会話をすることをあきらめ,
帰路につくことにした。


それでも・・・

言葉は交わせなくても
彼女がこちらをむいてくれて・・

意思の疎通ができたことに
少しだけ満足していた。


 ・・・ああ・・
 こんなんじゃ・・・・

 なかなか前にむいて
 進めない・・な・・・。



そう思ったけれど・・・
それでも・・・

これまでずっと
その場で固まって動かなかった
恋愛という感情が・・・


本当に本当に
わずかだけれど・・・

前に向いて進んでいることに
恥ずかしいくらいの
幸せを感じてしまっていた。



肩の上から由宇が
話しかける。

「さくちゃん・・きょうも
 いいことあった?」

「ん・・・?
 ・・・・ああ・・。」

朔は少し照れたけれど
由宇には正直にそう・・・返した。
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