朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
翌日。

今日も朔は
ちらりとすみれ組に
視線を向けながら
由宇をれんげ組へ送る。

朔に気が付いた陽和は
少しだけ頬を赤らめて
ペコリとお辞儀をする。

朔もそんな彼女に
頭を下げ微笑む。


高校へ向かいながら
つい・・・つぶやいてしまう。

「やべえ・・・
 ・・・かわいい・・・。」

朔はもう・・・
自分の陽和への気持ちが
前に向いて進みだしているのに
気が付いていた。

陽和の顔を見るだけで
鼓動が激しくなり
胸が苦しくなる。

中学生のころから
ずっと・・・
止まっていた「恋愛時計」は・・・

確実に秒針を刻み始めていた。



・・・だけど・・・

 陽和には恋人がいるかもしれない
 もしかしたら既婚の可能性も・・?

 あ・・でも苗字は変わって
 なかったなあ・・・


ドン!


今日もそんなことを考えながら
歩いているものだから
ドアにぶつかる。

「・・・朔先生。
 どうしたんすか?」

昨日と同じ光景を
昨日と同じようにみかけた生徒は
朔の行動に呆れていた・・・。









「おはようご・・・」
「朔ちゃん!!」

中村先生は朔が
挨拶をする間も与えないくらい
かぶせ気味に朔へ呼びかけた。

「は・・・はい?」

「今日の空き時間は?」

「え・・・えっと・・・
 3・・・限ですが・・。」

「はい。
 では,3限に
 お待ちしております。」

「は・・い。」

中村先生はかなり強引に
朔との約束をとりつけた。




3限。

「お邪魔しまーす。」

朔はそういって保健室に入った。

・・・というのも,
入り口に
「休んでいる人がいます。
 お静かに」という
プレートがかかっていたのだ。

朔は内心ほっとしていた。

生徒が寝ている手前,
つっこんだ恋愛話は
できないからだ。





中村先生は
手招きして,朔を
定位置のソファに座らせた。

ベッドからはこちら側は
死角になっていて見えない。

中村先生は
ホワイトボードを取り出して
「今日はこれで筆談!」
と書いた。


・・・そこまでして
何を急いで話すのかな・・・?

と朔は思ったけれど,
・・・まあ,
中村先生の指示に従った。


”この間の話の続き”

そう中村先生が書いたので,
朔はしぶしぶ頷いた。

 やっぱりそうか・・・
 きっと先生は
 何か核心に迫ることに
 勘付いたのだろうな。

朔はそう思って
観念した。


”朔ちゃんは,その思い人と
 何年ぶりの再会でしたか?”

 ・・うわ・・
 いきなり核心に迫っている・・。

朔は中村先生の顔を見上げて
苦笑した。

「笑ってごまかすつもり?」

中村先生は小声で・・・
でもちょっぴり強い口調で
言った。

 ・・・犯人を追い詰める
 刑事みたいだな・・・。

朔は苦笑したまま
ペンを握って・・・
もうすべてを白状しようと
ホワイトボードに綴った。

”13年”

「やっぱり。」

その数字をあらためてみつめると
随分長い年月だなと
朔自身実感した。

”先生,誰だか
 わかったんでしょ?”

朔はそう書いて
中村先生の方に掲げた。

中村先生は,頷きもせず
首もふらず・・・
朔をじっと見つめて
小声で話し始めた。

「昨日ね,
 ある子に3年ちょっとぶりに
 出会ったのよ。
 駅で買い物してる時に。」

「へえ・・。」

唐突に話し出した先生に
朔はとまどっていた。

「その子ね,
 高校のときに私が勤めていた
 学校に通っていた
 生徒なんだけど・・・。」

「ええ・・。」

「実は小学校の時にも
 私が勤めていた学校の
 児童だったのよ。」

「え?・・?」

そこからまた
中村先生はホワイトボードに
書き始めた。


”その子・・
 4月から百戸保育園の
 保育士さんなんだって。”

朔は,もう誰だか
完全にばれているのを
確信して,また
苦笑した。

「そうですか。」

”あなたの思い人は
 その彼女ですよね?”

中村先生はそう書いて
その下に
”YES・NO”と
書いて朔に手渡した。

朔はそれを見て
吹き出して笑ってしまった。

そして・・
YESの方に
花丸を付けて中村先生の方へ
向けて 掲げた。

「あはは・・。」

二人で結局大笑いしてしまって
慌てて口を押える。

「俺…
 そんなにわかりやすいですか?」

「ええ!」

それからもなぜかおかしくて
二人でクスクスと笑い続けた。

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