朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
その日の夕方。
朔はいつものように
由宇を迎えに行く。
ふと・・・
すみれ組に目を向けると・・
教室には陽和しかいなかった。
朔は・・・
足が震えるのを感じながらも
勇気を振り絞って
すみれ組の入り口から
顔をのぞかせた。
「あ・・あの・・・。」
陽和は後ろを振り返り
・・・目の前に朔が
いることに驚いていた。
「あ・・・あ・・・・。」
陽和は・・・
手で口を押える。
その手は・・・
小刻みに震えている。
陽和は・・・
ずっとずっと
心の中にあった
朔への思いを抱えながら・・
目の前にいる・・・
朔と・・・
どう向き合っていいのか・・
戸惑いを覚えていた。
それでも体は正直で・・
朔の気配を感じるだけで
顔がどんどん赤く
色づいていく・・・。
朔は・・・
震える足を・・
隠しつつも・・・
昼間に中村先生に
言われたことを思い出して
なんとか前に進みたいと
覚悟を決めて
話し始めた。
「あの・・・
ひ・・・
久しぶり・・・。」
あれだけ緊張していた
朔から出た言葉は
ありきたりな・・・
言葉だった。
陽和は声を発すること
すらできず・・・
ただひたすら頷いていた。
朔はそんな陽和を見て
あの頃を思い出していた。
身長の差が広がって
150センチちょっとしかない
陽和は,
190センチの朔から見ると
遥か低空にいるように見えた。
それでも俯いて赤い顔で
頷き続ける陽和は
あのころの面影そのまま
だった。
朔はふっと
気持ちが和んだ。
まるであの頃に
タイムスリップ
したみたいだ・・・。
時の流れを感じて
躊躇していた気持ちが
少しだけ薄らいでいく。
「あの・・・
げ・・・
元気だった・・・?」
そう聞くと,
陽和はやっと・・・
震える声で・・・
答えてくれた。
「・・・う・・ん。」
まだうつむいたままの陽和。
「あのさ・・・
・・・ごめんな・・・
あのとき。」
朔が唐突に謝ったので
陽和は驚いて顔を上げた。
「・・・え?」
そういって朔を見上げる
大きな瞳は・・・
朔が・・・好きになった・・
あの・・・瞳だった。
「あ・・・いや・・・
あのとき・・・
何も言わずに・・・
転校してしまって・・・。」
そして・・・
陽和の大きな瞳には・・・
きらりと光る・・ものが・・
見えて・・・
ポロリと零れ落ちた。
朔は驚いて目を丸くした。
「あ・・・あの・・
ううん・・・
あの・・・
私こそ・・・
あのとき・・・
ちゃんと・・・
返事を・・・
返せなくて・・・
ごめん・・・なさい・・・。」
陽和はぽろぽろと
大粒の涙をこぼす。
朔は・・・そのまま
抱きしめてしまいたい衝動に
駆られた。
・・・たぶん・・・
あの頃なら・・・
そうしていたかもしれない。
だけど・・・
大人になったということと
随分と長い時間のブランクがあった
ということがバイアスとなって
朔は何もできずにいた。
「陽和せんせ!
あ・・・
高比良さん,よかった
逢えたんですね。」
突然,廊下側のドアから
美和子が入ってきた。
「あ・・はい。
あ・・じゃ・・
俺はこの辺で。」
「あ・・・うん。
ま・・また。」
そういって朔は
慌てて隣のれんげ組へと
入っていった。
陽和は美和子に
涙を悟られないよう
上手くふるまう。
「やっぱり素敵ですねえ
高比良さん。」
「あ・・そ・・そう?」
陽和は取り繕いながら
教室を後にした。
帰り道。
朔は由宇を肩にのせて
歩く。
「さくちゃん,きょうは
いいことあった?」
「ああ・・・
うん。
かなり・・・な。」
「そうなんだ!
よかったねえ,さくちゃん。」
「ああ・・うん。」
由宇の純粋な言葉に
心が洗われる。
陽和の涙の意味は・・
いったい・・・
何だったんだろう。
だけど・・・
朔は心のどこかで
「もしかして・・・」
という思いになってきていた。
陽和の気持ちが
ほんの少しでも
自分の方を向いてくれて
いたら・・・?
もう自分は
なりふり構わず・・・
今度こそ・・
陽和にちゃんと・・・
返事をききたい・・・。
朔はいつものように
由宇を迎えに行く。
ふと・・・
すみれ組に目を向けると・・
教室には陽和しかいなかった。
朔は・・・
足が震えるのを感じながらも
勇気を振り絞って
すみれ組の入り口から
顔をのぞかせた。
「あ・・あの・・・。」
陽和は後ろを振り返り
・・・目の前に朔が
いることに驚いていた。
「あ・・・あ・・・・。」
陽和は・・・
手で口を押える。
その手は・・・
小刻みに震えている。
陽和は・・・
ずっとずっと
心の中にあった
朔への思いを抱えながら・・
目の前にいる・・・
朔と・・・
どう向き合っていいのか・・
戸惑いを覚えていた。
それでも体は正直で・・
朔の気配を感じるだけで
顔がどんどん赤く
色づいていく・・・。
朔は・・・
震える足を・・
隠しつつも・・・
昼間に中村先生に
言われたことを思い出して
なんとか前に進みたいと
覚悟を決めて
話し始めた。
「あの・・・
ひ・・・
久しぶり・・・。」
あれだけ緊張していた
朔から出た言葉は
ありきたりな・・・
言葉だった。
陽和は声を発すること
すらできず・・・
ただひたすら頷いていた。
朔はそんな陽和を見て
あの頃を思い出していた。
身長の差が広がって
150センチちょっとしかない
陽和は,
190センチの朔から見ると
遥か低空にいるように見えた。
それでも俯いて赤い顔で
頷き続ける陽和は
あのころの面影そのまま
だった。
朔はふっと
気持ちが和んだ。
まるであの頃に
タイムスリップ
したみたいだ・・・。
時の流れを感じて
躊躇していた気持ちが
少しだけ薄らいでいく。
「あの・・・
げ・・・
元気だった・・・?」
そう聞くと,
陽和はやっと・・・
震える声で・・・
答えてくれた。
「・・・う・・ん。」
まだうつむいたままの陽和。
「あのさ・・・
・・・ごめんな・・・
あのとき。」
朔が唐突に謝ったので
陽和は驚いて顔を上げた。
「・・・え?」
そういって朔を見上げる
大きな瞳は・・・
朔が・・・好きになった・・
あの・・・瞳だった。
「あ・・・いや・・・
あのとき・・・
何も言わずに・・・
転校してしまって・・・。」
そして・・・
陽和の大きな瞳には・・・
きらりと光る・・ものが・・
見えて・・・
ポロリと零れ落ちた。
朔は驚いて目を丸くした。
「あ・・・あの・・
ううん・・・
あの・・・
私こそ・・・
あのとき・・・
ちゃんと・・・
返事を・・・
返せなくて・・・
ごめん・・・なさい・・・。」
陽和はぽろぽろと
大粒の涙をこぼす。
朔は・・・そのまま
抱きしめてしまいたい衝動に
駆られた。
・・・たぶん・・・
あの頃なら・・・
そうしていたかもしれない。
だけど・・・
大人になったということと
随分と長い時間のブランクがあった
ということがバイアスとなって
朔は何もできずにいた。
「陽和せんせ!
あ・・・
高比良さん,よかった
逢えたんですね。」
突然,廊下側のドアから
美和子が入ってきた。
「あ・・はい。
あ・・じゃ・・
俺はこの辺で。」
「あ・・・うん。
ま・・また。」
そういって朔は
慌てて隣のれんげ組へと
入っていった。
陽和は美和子に
涙を悟られないよう
上手くふるまう。
「やっぱり素敵ですねえ
高比良さん。」
「あ・・そ・・そう?」
陽和は取り繕いながら
教室を後にした。
帰り道。
朔は由宇を肩にのせて
歩く。
「さくちゃん,きょうは
いいことあった?」
「ああ・・・
うん。
かなり・・・な。」
「そうなんだ!
よかったねえ,さくちゃん。」
「ああ・・うん。」
由宇の純粋な言葉に
心が洗われる。
陽和の涙の意味は・・
いったい・・・
何だったんだろう。
だけど・・・
朔は心のどこかで
「もしかして・・・」
という思いになってきていた。
陽和の気持ちが
ほんの少しでも
自分の方を向いてくれて
いたら・・・?
もう自分は
なりふり構わず・・・
今度こそ・・
陽和にちゃんと・・・
返事をききたい・・・。