朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
翌朝。金曜日。

朔は思い切って
すみれ組にいる陽和に
声をかけた。

「あ・・・お・・・
 おはよう。」

「・・お・・
 おはよう・・
 ございます・・・。」

陽和は耳まで真っ赤にして
朔に挨拶を返す。

朔の心の中で
期待が高まる。

 陽和は自分のことを
 意識してくれて
 いるんじゃないか?


朔は決意していた。

もし,今日,
由宇を迎えに来た時に
陽和と話ができたなら・・・

食事に・・でも・・
誘ってみよう・・・と。


そんなうきうきした気持ちを
押さえながら・・・
園から徒歩3分の勤務先へと
軽い足取りで向かっていった。








夕方。

朔はドキドキしながら
園へと向かっていた。

 今日こそは・・・ 
 陽和に・・・


そう思っていた朔の目に
飛び込んできたのは・・・

思わぬ・・・光景だった。





園の駐車場には
見かけない黒い車が
止まっていた。

この時間に迎えに来るのは
朔を含め数名。

ほとんどが母親による
迎えのため,
黒い車は少ない。


ひっかかるなって
思った朔の勘は・・・

当たっていた。






園の遥か向こうから
朔は・・その光景を
呆然と・・・見ていた。


それは・・・


園の中から
仲良さそうに出てくる
陽和と・・・

柔らかそうなイメージの
する甘いマスクの
男性・・・。


二人は談笑をしながら
あの黒い車に乗り込んだ。

男性は運転席に。
陽和は助手席に。
慣れた感じで乗り込んだ
二人は・・・

そのまま朔がいる方と
反対側へと消えていった。






 ・・・な・・・んだ・・・。

 ・・やっぱり・・・


 そりゃ・・・


 そうだよな・・・。





 あれだけ・・・
 かわいくて・・・
 そして・・性格もいい
 年頃の陽和に・・・

 恋人がいないわけが・・・

 ないじゃないか。



 最初からわかっていた
 ・・・想像していた
 はずなのに

 現実を突きつけられると
 ・・・苦しかった。



始まりそうだった
その「恋」は・・・

あっけなく終わりを告げた。


「なんか・・・
 長い・・・一週間だったな・・・。」


陽和と再会して・・・
久々に言葉を交わして・・・
恋をして・・・

でも・・終わった。


 一週間・・・
 慌ただしかった・・・なあ・・・。

 なんか・・・10年分くらい
 気持ちが上げ下げされた
 気分だ・・・。


抜け殻のようになった
朔は・・・由宇を迎えに
園へと歩を進めた。



由宇を肩車をして歩く。

「さくちゃん・・・
 きょうは・・・
 なにかあった?」

「あ・・・
 うん・・・。」

 どうしてだろうか。
 由宇には
 わかってしまうのだろうか。
 俺の気持ちが沈んでいるのが。

いつもは「いいこと」が
あったかどうか聞く
由宇は,この日は
「なにかあったか?」
と聞いた。

「あんまりいいこと
 じゃないことが・・・

 あったよ・・。」

「そう・・・。
 さくちゃん,
 かなしかったの?」

「・・・うん。
 そうだな・・・・。

 俺が勝手に
 悲しんでただけ
 だけどなあ・・・。」

「そう・・・。」

由宇はそれ以上
朔に何も聞かなかった。
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