朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
夕方。

子どもたちはお絵かきをしながら
保護者の迎えを待っていた。

陽和は・・・
昼間に起こった出来事を
頭の中で整理することが
できずにいた。


 由宇は朔のことを
 父親ではないといった。

 だけど・・・
 あれだけ顔や雰囲気が
 似ているのに・・・?

 一体どういうことなんだろう?

陽和は,
自分が,それを聞くのは
おかしいことは
百も承知だった。

だけど・・・
聞かずに帰ったら
今晩眠れないかもしれない。

古川先生には
変に思われるかも・・・
しれないけれど。

もう・・・そんなことを
考えない・・・。







子どもたちがみんな
帰ったころ。

陽和は隣のれんげ組に
顔を出した。

「古川先生?
 あの・・・
 由宇くんは・・・?」

「あ!
 陽和先生。
 昼間はお世話になりました!
 
 さっき,高比良さんから
 連絡があって
 陽和先生に言おうと思ってたのよ。」

「あ・・はい。」

「由宇くんは,念のため
 CTを撮ったけど,
 特に異常はなかったって。

 もう元気にしてますって
 言ってたよ。」

「ああ,よかった!」

陽和は,にっこりと
微笑んだ。

「あと,
 陽和先生に
 ありがとうございましたって
 お伝えくださいって・・・。」

「あ!・・え・・あ・・。」

そういって戸惑っている
陽和の様子を見て
古川先生は笑った。

「陽和先生って,
 高比良さんと知り合いなの?」

「え!? どうして・・?」

「いや,高比良さん・・・
 『陽和にも明日改めて
  お礼に行くとお伝えください。』
 って・・・
 陽和って呼び捨てだったから。」

「あ・・・ああ・・。
 はい・・。」

 もう・・・朔ちゃんってば
 落ち着いて・・よ・・。

陽和は顔を赤くしながら
古川先生に答えた。

「あの・・・小学校の時の
 同級生なんです。」

「ああ・・・そうなの?
 なるほど。」

古川先生は,それ以上
突っ込むこともなく,
画用紙を切る作業を続けていた。

「あのお・・・
 古川先生?」

「はあい?」

「・・・あの・・
 由宇くんが・・・
 高比良さんは父親では
 ないって・・・
 言ったんですけど・・・?」

「ああ。陽和先生,
 高比良さんとこの
 事情は・・・知らない・・・?」

「あ・・・はい。」

 事情・・・

 やっぱり,由宇が言ったことは
 本当なんだ。

陽和はそう思った。

「まあ,高比良さんも
 公表していいって言ってたから。
 同級生ってことだし。

 あのね,実は・・。」

「はい・・・。」

陽和はゴクッと
固唾を飲んだ。


朔は結婚して
幸せに暮らしていると
思っていたけど・・・

もしかしたら・・・
違うのかもしれないと・・・。

 どんな複雑な事情なのか・・・。

 朔はシングルファザーなのか?

 でも父親ではないって・・・?

・・・陽和の頭の中は
グルグルと・・・また
パニックを起こしていた。


だけど,
朔の置かれた状況は
陽和の想像とは全く違っていた。
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