朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
「実はね…。」

古川先生が話してくれた
高比良家の事情は…
陽和の想像を
遥かに越えたものだった。

朔の兄夫婦が事故で亡くなったこと。

由宇は兄の子で
朔の甥に当たること。

朔の母親も病気で亡くなったこと。

そして…朔が由宇を
引き取り、
今、二人で暮らしていること。

小学校のときに、
朔には父親がいないことは
知っていたが、
病気で亡くなっていたことも、
今知った。

無意識に
涙が頬を伝った。

自分が呑気に
生活している間、
朔はこんなにも
壮絶な人生を歩んで来たのか…。


「大丈夫?陽和先生?」

しゃくり上げて泣く
陽和の様子をみて,
古川先生は苦笑していた。

「す…すみません…。」

古川先生はその様子をみて,
宥めるように言った。

「でもね,二人とも
 すごく前向きでね。
 高比良さんがこの間言ってたけど…
 『最初は父親になろうと
  必死だったけど,
  今はそうは思わない』って。」


「え?」

陽和は聞き返した。

「父親じゃないけど,
 かけがえのない家族だって。」

陽和は,涙を流しながらも,
胸の中に温かいものが
拡がるのを感じた。

 すごいな…朔ちゃん。

 朔ちゃんは
 やっぱり朔ちゃんだ。

 あの頃と変わらない。
 優しくて強くて…
 わたしのヒーローだ。

「若いのにすごいわよね。」

そう,古川先生に言われて
陽和は,なぜか少し
誇らしく思った。

「…はい。
 朔ちゃんは昔から
 そうでした。」

「そう。」

古川先生はにっこり笑った。

陽和は,にっこりと笑い返した。

そして,決意した。

 私も朔ちゃんに負けないように
 頑張らなきゃ!

 もっともっと
 強く…なりたい。
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