朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
夕方。

陽和は帰り道も,朔のことで
頭がいっぱいだった。

子どもがいる・・・という
事象だけをみて,
朔は幸せなんだろうと
簡単に考えていた自分が
恥ずかしかった。

ただ,置かれている
背景は大変なもので
あったとしても・・・

どことなく朔は
そして,由宇も
幸せそうに見えた。

これが・・・朔の
力なんだろう。

どこまでも明るく輝く・・
月の名前の付いた
太陽のような朔。

 だけど・・・
 自分はどう・・だろうか。

それを踏まえたとき,
朔が1カ月話しかけて
くれなかったことを
どうとらえてらいいのか・・・。

陽和は思い悩んでいた。


ただただ・・・
同級生というだけの関係の
陽和には,そこまでの
興味が持てなかったって
いうことなんだろうか。

だけど,陽和は
朔の性格を考えたら
なんとなく腑に落ちなかった。

近くに・・いることが
わかれば,毎日声くらいは
かけてくれるはず・・。

朔が
「わざと
 避けているんじゃないか?」
と陽和は感じていた。

 それを・・・
 どう考えたらいいんだろうか・・・。

 やっぱり・・・
 恋人がいるから,
 昔好きだった私に声を
 かけることを
 躊躇うんだろうか・・・。

今日の出来事があって・・
明日改めてお礼に行くと
言ってくれた朔。

「明日は・・・
 少しだけ・・・話が
 できるのかな?」

陽和はぼそっとつぶやきながら
歩いていた。



「あれ?陽和ちゃん?」

駅前に近づくころ,
なじみのある声が聞こえた。

「わ!中村先生!
 こんばんは。」

「仕事帰り?お疲れさま。」

「はい!先生も?」

「ええ!」

中村先生はにこにこ
しながら話しかける。

「なかなかお茶しに行く
 機会がないですねえ。」

陽和がそういうと,
中村先生ははっと思いついたように
話し始めた。

「ねえ,今から・・は
 無理?」

「え!ああ,
 いいですよ~!
 先生は大丈夫なんですか?」

「うん。大丈夫。
 もう下の子も大学生で
 家は出たのよ。

 夫は夕ご飯,適当に
 済ませてもらうから♪」

「わ~!
 じゃあ,お言葉に甘えて。」

中村先生は,誰も待っている
様子のない陽和に,
ちょっとだけホッとしていた。


駅前のかわいい雰囲気の
カフェに入る。

「わー。一度入って
 見たかったのよね。」

「そうなんですか?
 私はよく来るんですよ。」

「一人で?」

中村先生はすかさず
つっこんだ。

「ええ。お休みの日の朝は
 ここで本を読みながら
 朝ご飯を食べたり・・・。」

陽和はにっこり笑って
そういった。

「そうなの?
 お休みの日くらい,
 デートでもしたらいいのに。」

「そうですねえ・・・
 そんな相手が
 いればいいんですけど・・。」

苦笑する陽和に対して
中村先生は核心に迫る。
朔のために,なんとか
情報を得たい!と
中村先生は強く思っていた。

「陽和ちゃんなら,
 そんな相手,すぐに
 見つかるでしょ?」

「いいえ,とんでもない。
 私なんて・・・。」

「じゃあ,フリーなのね?」

「へ?あ・・・はい。」

勢いよく質問する中村先生に
陽和は少しキョトンとした
表情をしていた。

「そう!そうなのね。」

陽和は,なぜか中村先生は
うれしそうな表情に見えた。

「あ・・・ごめんなさい。」

中村先生は,少し声が
大きくなったことに
苦笑しながら謝った。


「今は,仕事がとても
 楽しいので・・・。」

陽和は穏やかにそういった。

「そう。それは
 いいことよね。」

「はい。」

そういって,二人で
仕事の話をした。

園児と高校生では
ずいぶん違うように思うが,
それでも「子ども」のことに
関わる仕事をしていると
いう,共通項がある2人は
仕事の話で盛り上がった。


「まあ,すっかり
 話し込んじゃったわ。」

「そうですね。
 楽しかった!」

「こうやって,話ができる
 相手がいるっていいことよね。」

「ええ!
 同業ってわけじゃないけど,
 似ているところがこんなに
 あるんですね。」

「ホント。」

そういって笑う陽和に,
中村先生は期待も込めて
もう一度問うた。


「陽和ちゃん・・・
 気になっている人も
 いない・・・?」

「え・・・?あ・・・
 えっと・・・・。」

そういって顔を赤らめる
正直な陽和に
中村先生は
やっぱり朔と陽和は
似ているなあと感じていた。

「うちの教員で,
 陽和ちゃんに合いそうな
 人がいるんだけど・・・
 残念ねえ・・・。」

「あ・・・ええ・・
 そ・・・そうですねえ。」

顔を赤らめて
返事に困っている陽和に
中村先生はこう思っていた。

 陽和ちゃんも朔ちゃんのこと
 意識・・してるんじゃないかな。

だけど,それ以上のことを
自分が突っ込んで聞いて
しまってはいけないかなと
思った中村先生は,
陽和にこう告げた。

「まあ,もし興味があったら
 いつでも言って。
 いつでも紹介するから。」

「あ・・・は・・はい。」

陽和は複雑そうな表情を
浮かべて,そう返事をした。
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