朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
朔は陽和が乗った電車を
見送った後,
慌てて家へと向かった。

時刻は5時50分。
約束の時間までギリギリだ。

「お,おかえり~!」

家の前には見慣れた車が
止まっていた。

「あ・・・公ちゃん・・
 あ・・ありがとう。」

「なんだ!
 もう家に帰ってへこんでるかと
 思ったら,いい時間まで
 一緒にいれたのな?」

公ちゃんはからかいながら
くすくすと笑った。

「あ・・・えっと・・。」

「うまくいった?」

「あ・・・うーん。
 ま・・・まあ・・・。」

煮え切らない態度の朔に
公ちゃんは詰め寄る。

「連絡先くらいは
 交換したんだろうな?」

「え?あ!・・・
 忘れてた・・・。」

「・・・もう!!」

公ちゃんは呆れた。

「まあ,また保育園で
 会うんだろ?
 連絡先くらい渡せよ!」

そう宿題を命じられた。





由宇を連れて部屋に入る。

「楽しかったか?由宇?」

「うん!こうちゃんたちと
 いろんなおみせにいったよ。」

「そうかあ,よかったなあ。」

「さくちゃんは?」

「え?」

「さくちゃんはたのしかった?」

由宇の屈託のない笑顔に
朔は・・・心を
見透かされているような気がした。

「・・・あ・・ああ・・
 楽しかったよ。」

「うん!よかった。」

朔はあわてて夕食の準備を
始めた。


ダイニングテーブルに
座って夕食を待つ由宇は
楽しそうに今日のことを絵に描いていた。

「ふーん。うまいじゃん。」

そこには,笑顔で食事をする
5人が描かれていた。

「さくちゃん?」

「ん?」

「ぼくね・・・・
 こうちゃんも,ゆりちゃんも
 みさきねえちゃんも
 だいすきだけど・・。」

「うん。」

「ひよりせんせいもすきだよ。」

「え?あ・・ああ・・。」

「さくちゃんは,
 ひよりせんせいのこと,すき?」

「え・・・!?」

朔は驚いて由宇の方を見た。
由宇は気にせずに絵を
描き続けている。

だけど・・・やっぱりどこか
見透かされている気がした。
自分の気持ちを・・・。
朔は正直に・・・答えた。

「・・・うん・・・
 好きだよ・・・。」

「そっかあ。
 うん,よかった。」

不思議だった。
由宇がどんな意味を込めて
そういったのかはわからない。
だけど・・・
朔は由宇に背中を押されたような
気がした。

陽和との恋愛を始めてもいいよって
由宇に言われているような
気持ちになった。
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