朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
夕方。

とりあえず,昨日
公ちゃんに出された宿題を
挙行することにした。

「あ・・あの・・・。
 高須賀先生。」

朔はすみれ組を覗いて
陽和に目くばせした。

すみれ組には子どもは
残っておらず,
そこには美和子と陽和がいた。

「あ・・・はい・・。」

陽和は朔のところまで
近寄ってきた。

「あの,ひよ・・
 高須賀先生。
 この間は,うちの由宇が
 大変お世話になりました。

 今後ともよろしく
 お願いいたします。」

そう緊張した声で言ったあと,
朔は陽和の手をそっと握って
連絡先を書いたメモを渡した。

だけど・・・
陽和も朔も・・手を握るという
行動の方に緊張してしまって・・・。

耳まで真っ赤になった二人は
よそよそしくその場を離れた。

美和子はその様子を見て
可笑しくなった。

朔が帰ってから,美和子は
くすくすと笑いながら
陽和に話しかけた。

「高比良さん・・・
 芝居・・下手ですね。」

「え?あ?
 あはは・・!!」

陽和はあまりに的を射た
美和子の言葉に可笑しくなって
大笑いした。

「なんか,陽和先生も
 いい加減,恋に不器用だなと
 思ってましたけど・・・

 高比良さんはもっと
 ひどいですね・・・。」

「え・・・あ・
 そう・・・かなあ・・。」

「イケメンなのに・・
 残念だなあ・・・。」

「・・・ふふふ・・。」

陽和は美和子の言葉が
やっぱり可笑しかった。

「私は・・・ちょっと
 『なし』ですねえ・・・
 今の高比良さんは・・・。」

陽和はそう言われて
やっぱり自分はおかしいのかな
と思った。

さっきの朔の姿に
何よりもキュンとして
しまったから・・・。

「でも・・・
 なんか・・いいですね。

 お二人,お似合いだと思います。」

「え?・・・そ・・う・・?」

「それに・・・
 陽和先生・・・あの
 高比良さん見ても,
 まだ・・・陽和先生のこと
 好きじゃないって言えますか?」

「え?」

「なんか,全身で
 『好きだ!』って
 叫んでるみたいでしたけど?」

「え・・・えええっ?」

陽和は驚いた。

 ・・・そ・・・
 そうなの・・・かな・・・?





朔が渡してくれたメモは,
先週,由宇伝いに渡ったメモより
さらに湿気てクシャクシャに
なっていた。

”よかったら連絡ください。”

その下に,電話番号と
メールアドレスが書いてあった。

さっきの朔の顔が
頭をよぎる。

ふっ・・・
と陽和は笑った。

陽和はそのメモを大切に
かばんにしまい込んだ。
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