朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
翌日も,朔は由宇を
れんげ組に送った後,
すみれ組を覗いて挨拶をした。

帰りは,由宇を迎えに行く前に
すみれ組の方を見て
陽和とアイコンタクトをとる。

陽和が家に帰ると,
朔からメールが入っていた。

”陽和。今日もお疲れさま。
 今日も,がんばってたな。
 活き活きと働く陽和は
 かっこいいです。”

陽和は・・
携帯を握りしめたまま
また・・・涙を
こぼしていた。

「・・・朔ちゃん。」

この胸の苦しみを
いつまで自分の心の中に
とどめておかなくては
いけないんだろうか・・・。

陽和は胸が苦しくて苦しくて
どうしたらいいかわからなく
なっていた。

陽和は朔への最初の気持ちを
思い出していた。

 あれから・・・自分は
 朔に「頑張ってるな」と
 言ってほしくて・・
 頑張ってきたのではないか?

 なのに・・・
 そういってもらえたのに・・・

 うれしいという気持ちは
 もちろんあるものの・・・

 それだけじゃない・・
 感情が・・・
 自分の心の中を
 渦巻いている・・・。

 私は・・・
 欲張りなのかな・・・。

 だけど・・・
 もう・・・後戻りは
 できない・・・。

 もう・・・後悔は
 したくない・・・・。

陽和の思いは・・・
強く強く固まりつつあった。

毎朝・毎夕,
手を振りあって・・・

毎日・・・一言だけの
メールのやり取りをして・・。

そんなことが10日ほど
続いた木曜日の夜。

朔は・・・この1週間ちょっと
最初は,メールをするだけで
精一杯だったけれど・・・

だんだんと物足りなさを
感じていた。

「あー・・・
 陽和不足だ・・・。」

朔はわけのわからないことを
言いながらソファに
つっぷした。

目を閉じると思い出すのは
陽和の笑顔ばかり。

もう・・・陽和のことで
頭がいっぱいだった。

「誘って・・・
 みようかな・・・。」

そういって朔は
携帯を手に取った。

”今日もお疲れさま。
 陽和・・・今,
 何してる?”

”お疲れさま。
 お風呂からあがって
 のんびりしてるよ。”

 ・・・お風呂・・。

朔はちょっとだけ
陽和の姿を想像して
顔を赤くする。

 ・・・いやいや・・
 そうじゃなくて・・・。

朔は気を取り直して
メールを打つ。

”今・・
 電話してもいい?”

”うん。”

そう返事が返るや否や
朔は陽和の名前を選び
電話をかける。

「もしもし・・。」

「あ・・・もしもし・・。」

あの土曜日以来,
まともな会話は久しぶりだった。

携帯を握る手が震える。

「こ・・こんばんは。」

「あ・・こんばんは。」

「ごめん・・
 遅い時間に。」

「あ・・・ううん・・。
 大丈夫。」

朔は陽和の声を耳元で
感じて・・・
胸がいっぱいになった。

「あの・・・さ・・。
 明日,帰りに・・・
 ご飯でも・・どう・・かな?」

「え・・?あ・・・」

「あ・・えっと・・・
 由宇も一緒・・だけど。」

「あ・・・うん。
 いい・・よ。
 大丈夫。」

「や・・やった。
 え・・えっと・・
 じゃあ・・えっと
 駅前で待ってるから。」

「あ・・うん。」

陽和は・・・
小さく聞こえた・・朔の
「やった」という声に
心をときめかせていた。

 ・・・もしかして・・・
 本当に・・・朔ちゃんは・・・
 私のこと・・・?

陽和は決めた。

・・・ちゃんと思いを
伝えようと。


「じゃあ・・・
 待ってるから。」

「・・はい。」

「おやすみ。」

「おやすみなさい。」


電話を切った朔は
思いっきりガッツポーズを
していた。

「さく・・ちゃん?」

トイレに起きた由宇が
訝しげな顔で朔を見ていた。
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