朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
夕方。
由宇を迎えに来た朔は,
敢えて陽和と話をしなかった。
いつも通り,
すみれ組を覗いて
軽く手を振った。
陽和は手を振り返した後,
自分の手を握りしめた。
震えるその手は・・・
次のステップを刻みたいと
心に誓っていた。
朔は,由宇に食事に行くことを
告げた。
「もしかして,
ひよりせんせいもくる?」
「え?あ・・ああ・・。
なんでわかったの?」
「きのう,さくちゃんが
でんわしてたの・・みたから。」
「あ。そうか。」
朔は何げなく由宇の言葉を
聞いていた。
「でね,さっき,
ひよりせんせいにきいたら,
でんわしてたよって
いってたから。」
「ああ・・そうか。
え!? お前,
陽和に聞いたの?」
「うん。」
「え!他に・・何か
言ってた?」
「ううん。」
「あ・・そ・・そうか。」
朔は子ども相手に焦った
自分に少し恥ずかしさを
感じていた。
「あ,えっと,
さくちゃんが,がっつぽーず
してたよっていったら・・・
ひよりせんせいわらってた。」
「えーーーーっ!?
由宇,それ,陽和に言ったのか?」
「・・うん。」
朔は真っ赤な顔をして
頷く由宇の顔を照れくさそうに見た。
「・・・まあ・・・いっか。」
朔は・・・そう思った。
別に・・・陽和に気持ちが伝わって
まずいことなんて・・ないはずだ。
駅前にあるファミレスで
朔と由宇は陽和を待った。
「さくちゃん?」
「ん?」
「さくちゃんは,きんちょう
してるの?」
「え?・・あはは・・
そう・・だな。
緊張してる。」
「うん。でも,
きっといいことがあるよ。」
「そうだな。
ありがとう。由宇。」
そういって朔は
由宇の頭をなでていた。
「ごめんなさい。
お待たせしました。」
明らかに走ってきた陽和の
姿に・・・朔は・・
顔が綻んだ。
急いで・・来てくれたの・・
か・・・?
陽和は髪を整えながら
由宇と朔の向かい側に
座った。
「あ・・えっと・・・
注文はもう・・した?」
「あ・・・ううん。
まだ。」
「あ・・そ・・っか。
あ,はい。
メニュー。
由宇ちゃん,何がいい?」
陽和は自然に由宇のほうに
メニューを向けた。
そんな様子にも朔は
ときめいていた。
陽和と由宇は,仲良く
飲み物を取りに行った。
その後ろ姿は,
完全に親子そのものだった。
パッと見・・
親子に見えるよな・・
もしかして・・
俺も含めて親子3人に
見えるのかな・・・?
朔はそう考えると
顔が赤くなった。
陽和と由宇は
すっかり仲良くなって,
終始楽しそうに話していた。
そんな様子を見ていて
朔も顔がほころんだ。
先々週,あんなに緊張していたのが
嘘のように・・・
3人で過ごす時間は心地よく
自然な雰囲気がした。
「さて,そろそろ・・・
帰らないと。」
陽和が切り出した。
時刻は8時半。
幼稚園児の由宇にとっては
既に遅い時間だ。
席を立ってレジへ向かう。
お財布を出した陽和に
朔は・・・・
「いや・・俺が
払うから・・・。」
そういって陽和を遮った。
「あ・・・でも・・・。」
「いいから・・
俺に・・出させて。
その代わり・・・
後でお願いがある。」
真剣なまなざしで
そう言う朔に陽和は
ドキリとした。
「え・・・あ・・・はい。」
陽和は・・ドキドキして
朔の申し出を受け入れた。
お店から出たところで,
朔は陽和にこう告げた。
「えっと・・・あの・・・
うちへ寄ってもいい?」
「え・・・?」
陽和は思わぬ言葉に
顔を真っ赤にして戸惑っていた。
「あ!・・や・・えっと・・
そうじゃなくて・・・
えっと・・・
ゆ・・・由宇を・・・
家に送った後・・・
ひ・・・陽和を・・・
送りたいんだけど・・・・。」
「あ・・ああ・・・
うん・・・。
ありがとう。
でも・・・私・・・
大丈夫だよ。
駅からなら・・・
すぐだし・・・・。
ありがとう。今日は
楽しかった。」
「あ・・・いや・・・
あの・・・。」
朔は困った表情をして
陽和のほうを見遣った。
「あの・・・・
・・・頼むから・・・
送らせて・・・。」
朔のその切ない表情を見た
陽和は・・・
胸が締め付けられるような
苦しみを感じて,
手を握り締めていた。
「え・・・。
・・・・あ・・うん。」
陽和は不思議だった。
こんなに逞しくて
自分の倍くらいの大きさの
朔に対して・・・
愛おしい気持ちがあふれていた。
もし・・・
恋人だったら・・・
私は今すぐにでも
朔ちゃんを抱きしめたろうに・・。
陽和はそんな心境だった。
「・・・あ・・じゃあ・・
行きますか・・?」
「あ・・・はい。」
陽和は朔の方を見上げて
照れ臭そうに笑った。
二人は由宇を挟んで
陽和は由宇の左手を
朔は由宇の右手をつないだ。
由宇は二人の顔を交互に見て
うれしそうな顔をしていた。
駅から歩いて
ほんの少しのところで
朔と由宇は立ち止まった。
「あ・・・あの・・・
ここが俺たちのマンション。
ここで・・待っていて
もらえますか?」
朔は1階のコンビニを
指さした。
普通なら・・・
部屋まで案内するのかもしれない。
でも・・・
そういうことをしない朔が
誠実で・・・素敵だなと陽和は思った。
「あ・・・うん。」
陽和はにこっと笑って頷いた。
「由宇ちゃん。
今日はありがとう。
楽しかった。」
「うん。ぼくもたのしかった。
また,いっしょに
ごはんたべようね。」
「え・・・?あ・・・
うん。」
陽和はにっこりと笑って
由宇と握手した。
その後ろには苦笑いで
頭をかく朔がいた。
「ま・・まいったな・・。
俺が・・・陽和に・・・
頼みたかった事・・・
先に由宇に言われちゃったな・・。」
「え・・・。
ふふ・・・・。」
そういいながら朔と由宇は
エレベーターに乗り込んだ。
「おまたせ。」
15分後に
コンビニに現れた朔は
ちょっと照れながらそう言った。
「あ・・・もう・・・
大丈夫なの?」
「ああ。」
急いで由宇をお風呂に入らせ,
寝る用意をしてから朔は
1階へ降りてきた。
レジをちらりと見やると
田丸のおばさんがいた。
田丸のおばさんは,
にっこり笑って
「そういうことね。」
という顔をした。
朔はちょっと赤くなって
頷いた後,
陽和に悟られないように
コーヒーを買って
外へ出た。
「・・・今日はありがとう。
ホントに・・楽しかった。」
そういって陽和は朔を見上げる。
「あ・・・うん。」
朔はそういいながら
陽和の方をちらりと見る。
あまりにかわいくて
凝視できず・・・
視線を上に上げたまま,
陽和に話しかける。
「なあ・・・陽和?」
「うん?」
「陽和,あらためてお願いするよ。
また食事に行ってくれる?」
「・・・うん。」
陽和はこくりと頷き、
朔の方を見上げた。
由宇を迎えに来た朔は,
敢えて陽和と話をしなかった。
いつも通り,
すみれ組を覗いて
軽く手を振った。
陽和は手を振り返した後,
自分の手を握りしめた。
震えるその手は・・・
次のステップを刻みたいと
心に誓っていた。
朔は,由宇に食事に行くことを
告げた。
「もしかして,
ひよりせんせいもくる?」
「え?あ・・ああ・・。
なんでわかったの?」
「きのう,さくちゃんが
でんわしてたの・・みたから。」
「あ。そうか。」
朔は何げなく由宇の言葉を
聞いていた。
「でね,さっき,
ひよりせんせいにきいたら,
でんわしてたよって
いってたから。」
「ああ・・そうか。
え!? お前,
陽和に聞いたの?」
「うん。」
「え!他に・・何か
言ってた?」
「ううん。」
「あ・・そ・・そうか。」
朔は子ども相手に焦った
自分に少し恥ずかしさを
感じていた。
「あ,えっと,
さくちゃんが,がっつぽーず
してたよっていったら・・・
ひよりせんせいわらってた。」
「えーーーーっ!?
由宇,それ,陽和に言ったのか?」
「・・うん。」
朔は真っ赤な顔をして
頷く由宇の顔を照れくさそうに見た。
「・・・まあ・・・いっか。」
朔は・・・そう思った。
別に・・・陽和に気持ちが伝わって
まずいことなんて・・ないはずだ。
駅前にあるファミレスで
朔と由宇は陽和を待った。
「さくちゃん?」
「ん?」
「さくちゃんは,きんちょう
してるの?」
「え?・・あはは・・
そう・・だな。
緊張してる。」
「うん。でも,
きっといいことがあるよ。」
「そうだな。
ありがとう。由宇。」
そういって朔は
由宇の頭をなでていた。
「ごめんなさい。
お待たせしました。」
明らかに走ってきた陽和の
姿に・・・朔は・・
顔が綻んだ。
急いで・・来てくれたの・・
か・・・?
陽和は髪を整えながら
由宇と朔の向かい側に
座った。
「あ・・えっと・・・
注文はもう・・した?」
「あ・・・ううん。
まだ。」
「あ・・そ・・っか。
あ,はい。
メニュー。
由宇ちゃん,何がいい?」
陽和は自然に由宇のほうに
メニューを向けた。
そんな様子にも朔は
ときめいていた。
陽和と由宇は,仲良く
飲み物を取りに行った。
その後ろ姿は,
完全に親子そのものだった。
パッと見・・
親子に見えるよな・・
もしかして・・
俺も含めて親子3人に
見えるのかな・・・?
朔はそう考えると
顔が赤くなった。
陽和と由宇は
すっかり仲良くなって,
終始楽しそうに話していた。
そんな様子を見ていて
朔も顔がほころんだ。
先々週,あんなに緊張していたのが
嘘のように・・・
3人で過ごす時間は心地よく
自然な雰囲気がした。
「さて,そろそろ・・・
帰らないと。」
陽和が切り出した。
時刻は8時半。
幼稚園児の由宇にとっては
既に遅い時間だ。
席を立ってレジへ向かう。
お財布を出した陽和に
朔は・・・・
「いや・・俺が
払うから・・・。」
そういって陽和を遮った。
「あ・・・でも・・・。」
「いいから・・
俺に・・出させて。
その代わり・・・
後でお願いがある。」
真剣なまなざしで
そう言う朔に陽和は
ドキリとした。
「え・・・あ・・・はい。」
陽和は・・ドキドキして
朔の申し出を受け入れた。
お店から出たところで,
朔は陽和にこう告げた。
「えっと・・・あの・・・
うちへ寄ってもいい?」
「え・・・?」
陽和は思わぬ言葉に
顔を真っ赤にして戸惑っていた。
「あ!・・や・・えっと・・
そうじゃなくて・・・
えっと・・・
ゆ・・・由宇を・・・
家に送った後・・・
ひ・・・陽和を・・・
送りたいんだけど・・・・。」
「あ・・ああ・・・
うん・・・。
ありがとう。
でも・・・私・・・
大丈夫だよ。
駅からなら・・・
すぐだし・・・・。
ありがとう。今日は
楽しかった。」
「あ・・・いや・・・
あの・・・。」
朔は困った表情をして
陽和のほうを見遣った。
「あの・・・・
・・・頼むから・・・
送らせて・・・。」
朔のその切ない表情を見た
陽和は・・・
胸が締め付けられるような
苦しみを感じて,
手を握り締めていた。
「え・・・。
・・・・あ・・うん。」
陽和は不思議だった。
こんなに逞しくて
自分の倍くらいの大きさの
朔に対して・・・
愛おしい気持ちがあふれていた。
もし・・・
恋人だったら・・・
私は今すぐにでも
朔ちゃんを抱きしめたろうに・・。
陽和はそんな心境だった。
「・・・あ・・じゃあ・・
行きますか・・?」
「あ・・・はい。」
陽和は朔の方を見上げて
照れ臭そうに笑った。
二人は由宇を挟んで
陽和は由宇の左手を
朔は由宇の右手をつないだ。
由宇は二人の顔を交互に見て
うれしそうな顔をしていた。
駅から歩いて
ほんの少しのところで
朔と由宇は立ち止まった。
「あ・・・あの・・・
ここが俺たちのマンション。
ここで・・待っていて
もらえますか?」
朔は1階のコンビニを
指さした。
普通なら・・・
部屋まで案内するのかもしれない。
でも・・・
そういうことをしない朔が
誠実で・・・素敵だなと陽和は思った。
「あ・・・うん。」
陽和はにこっと笑って頷いた。
「由宇ちゃん。
今日はありがとう。
楽しかった。」
「うん。ぼくもたのしかった。
また,いっしょに
ごはんたべようね。」
「え・・・?あ・・・
うん。」
陽和はにっこりと笑って
由宇と握手した。
その後ろには苦笑いで
頭をかく朔がいた。
「ま・・まいったな・・。
俺が・・・陽和に・・・
頼みたかった事・・・
先に由宇に言われちゃったな・・。」
「え・・・。
ふふ・・・・。」
そういいながら朔と由宇は
エレベーターに乗り込んだ。
「おまたせ。」
15分後に
コンビニに現れた朔は
ちょっと照れながらそう言った。
「あ・・・もう・・・
大丈夫なの?」
「ああ。」
急いで由宇をお風呂に入らせ,
寝る用意をしてから朔は
1階へ降りてきた。
レジをちらりと見やると
田丸のおばさんがいた。
田丸のおばさんは,
にっこり笑って
「そういうことね。」
という顔をした。
朔はちょっと赤くなって
頷いた後,
陽和に悟られないように
コーヒーを買って
外へ出た。
「・・・今日はありがとう。
ホントに・・楽しかった。」
そういって陽和は朔を見上げる。
「あ・・・うん。」
朔はそういいながら
陽和の方をちらりと見る。
あまりにかわいくて
凝視できず・・・
視線を上に上げたまま,
陽和に話しかける。
「なあ・・・陽和?」
「うん?」
「陽和,あらためてお願いするよ。
また食事に行ってくれる?」
「・・・うん。」
陽和はこくりと頷き、
朔の方を見上げた。