朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
「・・・陽和ちゃん・・・
陽和ちゃん?」
気が付くと陽和は
ベッドの上で寝ていた。
「あ?え?
・・ここは・・・?
え?・・・先生?」
目の前にいたのは
朔ではなく中村先生だった。
「よかった・・。
気が付いて。」
「え・・・?
・・・私・・・?」
陽和はきょろきょろと
周りを見渡した。
「大丈夫。ここは
百戸高校の保健室。
裏口から入ったから
誰も見てないから。」
「あ・・・え・・
私・・どうしてここに?」
「うーん・・・
思ってもみない
展開だったわね。」
「え・・・?」
中村先生が苦笑いをして
そういうので陽和は首を傾げた。
「いや・・
あのね・・
朔ちゃんが一世一代の
大勝負に出るっていうから・・
由宇ちゃんを預かったんだけど。」
「あ・・・やだ・・・
朔ちゃん・・・
先生に言ってたんですか。」
「ええ・・。
最初っから全部
聞いてたけど・・・。」
そういって中村先生は
くすくす笑った。
「起き上がれそう?」
「あ・・・はい。」
陽和はベッドの上に座った。
中村先生は紅茶を渡してくれた。
「たぶん・・・
驚いたショックもあると思うけど・・
朔ちゃんが『圧迫』したから
でしょうね。」
そういうと中村先生は
呆れた顔をした。
陽和は顔を赤くする。
「馬鹿よねえ・・・
いくら好きでたまらないからって
あの大男が陽和ちゃんのような
か弱い女子を力いっぱい
抱きしめたら・・・苦しいに
決まってるじゃない。
圧死するところだったわよね。」
圧死・・って。
陽和は朔のことを思い出して
くすくす笑った。
「それに・・・
陽和ちゃん・・・あまり
寝てなかったんじゃない?」
「え・・・?」
さすが・・・養護の先生だなと
陽和は思った。
「もしかして・・・
恋煩い・・・?」
「・・・。」
陽和はコクリとうなずいて
恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「・・・眠れなくて・・・
朔ちゃんのこと考えると
・・・つらくて・・・
自然と・・・涙が・・・。
あ・・・
そういえば・・・
朔ちゃんは・・・?」
本当は・・・
朔は・・カーテンの向こう側の
定位置のソファに座っていた。
中村先生からは
朔の顔は見えるが・・
陽和の角度からは見えない。
朔は近寄ろうとしたが
中村先生が目で制した。
目配せをして・・
朔に「静かにしてて」と
伝えた。
朔は中村先生が何か
企んでいることがわかり
苦笑いを返した。
「朔ちゃんは,今,
反省中。
向こうの部屋に
由宇ちゃんと一緒にいるわ。」
由宇は,保健室の
入口に近いところのテーブルで
絵を描いて遊んでいた。
中村先生は陽和の方を向く。
「・・朔ちゃんはね・・・。
ホント・・恋愛経験乏しいし,
抱きしめ加減も知らずに
圧死させそうになっちゃうくらい
不器用だけど・・・
陽和ちゃんを思う気持ちだけは
ほんとにまっすぐだと思うのよ?」
「・・・はい。」
「それだけは・・
疑わずに・・・信じてあげて
ほしい。」
「・・・・はい。」
陽和はまた・・
涙ぐんでいた。
朔のまっすぐな気持ちは・・
もう・・十分すぎるほど
伝わってきたから・・・。
「見た目はともかく・・・
行動は・・少々・・・
かっこ悪いかもしれないけど・・・。」
そういってくすくす笑う中村先生を
朔はじろっとにらんだ。
陽和はくすっと笑って・・・
でも・・また真面目な顔で
こういった。
「・・そんなこと・・ないです。
私にはもったいないくらいの
人です・・。
朔ちゃんは・・・。」
「・・・そう?
そりゃあ・・よかった。」
中村先生はほっとした顔で
向こう側の朔を見遣った。
「じゃあ・・・
朔ちゃんが帰ってきたら・・
ちゃんと・・伝えなきゃ・・ね?」
「・・・はい。」
中村先生はにっこり笑って
陽和の方を見た。
そして・・今度は
ちょっとだけにやっと笑って
陽和を見る。
「陽和ちゃんは,
・・・朔ちゃんの
どんなところが好きなの?」
「え・・?」
中村先生がちらっと
朔のほうを見ると
朔は顔を赤くして目を
大きくしていた。
「・・・・うーん・・
言葉にするのは・・・
難しいんですけど・・・。」
「うん。」
そういって,陽和は・・
小学生の頃の話を
し始めた。
「私・・・
3年生のときに・・・
ある出来事があって・・・
それから・・ずっと
朔ちゃんのことが気になって。」
朔は・・・
びっくりしていた・・・
「あの時」・・・陽和は
嫌がっていたわけじゃ
なかったのか・・・。
「ずっとずっと・・・
好きだったんです。
その後・・・
意識しすぎて
全然しゃべれなく
なっちゃったけど・・・
ずっと・・・
目で追ってました・・・
朔ちゃんのこと。」
「・・・そう。」
幼い二人を思い出して,
中村先生は懐かしそうに笑った。
朔はあのころのことを
思い出して・・・
少し後悔していた。
早く・・・気持ちを
伝えたら・・・
よかったなあ・・・。
「5年生のころ・・・
朔ちゃんから・・・
陽和ともっとしゃべりたいって
言ってもらって・・
・・・すごくうれしくて。」
朔は・・・顔が
綻んで・・仕方なかった。
あのときの・・・
5年生の朔が聞いたら・・
飛び跳ねて喜ぶだろうな。
「でも6年生になると・・
朔ちゃんが私のこと
好きだなんて・・
そんなわけないって
思っちゃったんです。」
「どうして?」
「・・・うーん・・。
朔ちゃんが話しているのを
聞いて・・・
たぶん・・・
勘違いだったんでしょうけど。」
「そう。」
朔は・・・何のことか
ピンと来なかったけれど・・
そんな理由があったのか・・・
と思った。
「6年生のころ・・・
告白されたんですけど・・
びっくりして・・
返事ができなくて・・・
朔ちゃんはそのまま
転校しちゃって・・・。」
「ああ・・・。
そうだったのね。」
「でも・・私・・・
朔ちゃんが引っ越すなんて
知らなかったんです。」
「え・・・そうだったの。」
「だから・・・
返事が・・できないって
わかって・・・
ずっとずっと・・・
後悔してました。」
「・・・・そう。」
中村先生はちらりと
朔の方を見た。
朔は気まずそうな顔をする。
「だから・・私・・・
ずっとずっと・・・
もし・・・今度
朔ちゃんに会ったら
あのとき・・
本当は好きだったんだって
伝えて・・謝ろうと
思ってきました。」
「そう・・・。」
「そして・・・
そのときに・・・
胸を張って朔ちゃんに
会いたいと思ったんです。
朔ちゃんに
『陽和,頑張ってるな』って
言ってもらいたくて・・・。」
朔は驚いていた・・・。
だから・・あのとき・・
陽和は・・泣いたのか・・。
「私・・・何か
つらいことがあったり
しんどいことがあったときには,
心の中で・・
朔ちゃんに話しかけていたんです。
『朔ちゃん・・私
がんばれてるよね?』って。」
「まあ・・・。」
朔は・・・自分の頬に
熱いものが流れ落ちるのを
感じた。
陽和は・・・そんな風に
自分のこと・・
思ってくれてたんだ・・・。
「だから・・・私・・・
あまり・・意識してなかったけど・・
ずっとずっと
朔ちゃんのこと・・・
思ってきたのかもしれません。」
「え?ずっと・・・?」
「・・・はい。」
中村先生は驚いた。
13年の片思いをしていたのは
朔だけじゃなかったのだ・・。
・・・というか・・・
片思いじゃ・・
なかったじゃないの。
ホントに・・・
似た者同士なのね・・・。
二人は・・。
「私・・・去年・・・
百戸保育園に赴任する前に・・・
ここにいる朔ちゃんを・・
見かけていたんです。」
「え?そうだったの?」
朔もカーテンの向こうで
驚いていた。
「・・・はい。
あ・・・でも・・・
そのときは・・
朔ちゃんってすぐに
わからなかったんですけど・・・。
なのに・・私・・・
心を奪われてしまって・・・。
その後・・・それが
朔ちゃんだって気が付きました。
そのときに・・・
もう・・・完全に・・・
あのころの気持ちが・・・
戻ってきちゃって・・・。」
「・・・そっかあ。
恋に落ちたのね?」
「・・・うーん・・でも
久々すぎて・・
しばらくよく
わかりませんでした。
でも・・心の中で
ちょっとびっくりして・・・
『ああ・・・私は・・・
やっぱり・・・朔ちゃんじゃ
ないと・・・ダメなんだ。』って。」
「・・・そっか。
陽和ちゃんにとって・・・
朔ちゃんは・・・運命の
人なんだね。」
「・・・はい・・・。
朔ちゃんは・・・
ずっとずっと私の・・
ヒーローですから。」
・・・朔は・・・
顔を赤くして・・・
うつむいて頭を抱えていた。
・・・陽和・・・・
わー・・・俺・・・
もう・・・やば・・いな・・。
「朔ちゃん!見てみて!」
由宇が出来上がってきた
絵をもって朔の方へ
走ってきた。
「え?」
陽和は驚いて声を上げた。
「さ・・・朔ちゃん・・・
い・・・いるの?」
「あ・・・・。」
朔はしまったという
顔をして・・・
・・・そっとカーテンから・・
顔をのぞかせた。
「・・ごめん・・。」
「え・・・朔ちゃん・・・
いつから・・・い・・たの?」
「・・・ごめん・・・。
最初から・・・。」
陽和は顔を真っ赤にして
うつむいた・・。
「よ・・・よかった・・・
陽和が・・無事で・・。」
「え・・・?」
そういった朔に
中村先生は笑った。
「そうよねえ・・・
朔ちゃん,さっき
陽和ちゃん抱えて・・
真っ青な顔してたもんねえ・・。」
「はあ・・。」
陽和はまた顔を赤らめて
・・・言った。
「あ・・・ありがとう・・
朔ちゃん・・・
お・・重くなかった?」
「え?
あ・・はは。
大丈夫。全然・・
陽和・・・軽いし・・・
・・・というか・・
心配で心配で・・・
それどころじゃなかった。」
そうさらっと言ってのけた
朔の愛に・・・
陽和は・・また・・
照れてしまった。
陽和はちょっと目を
うるませて,恥ずかしそうに
微笑んだ。
「さて・・・
由宇ちゃん,先生と一緒に
ご飯食べに行こうか?」
「うん!」
「え・・・
先生・・・?」
「あ・・・大丈夫よ。
外側から出られるから。
カギはこれ。はい。
他のところを締め終える前に
出れば,セキュリティーも
大丈夫だし。」
「あ・・・はあ・・どうも。」
「まあ・・・ゆっくり
話してなさいよ・・2人で。」
中村先生は,
駅前のファミレスにいるわ
と言い残し,朔の肩を
ポンポンっと叩いて
由宇の手を引いて保健室を出た。
陽和ちゃん?」
気が付くと陽和は
ベッドの上で寝ていた。
「あ?え?
・・ここは・・・?
え?・・・先生?」
目の前にいたのは
朔ではなく中村先生だった。
「よかった・・。
気が付いて。」
「え・・・?
・・・私・・・?」
陽和はきょろきょろと
周りを見渡した。
「大丈夫。ここは
百戸高校の保健室。
裏口から入ったから
誰も見てないから。」
「あ・・・え・・
私・・どうしてここに?」
「うーん・・・
思ってもみない
展開だったわね。」
「え・・・?」
中村先生が苦笑いをして
そういうので陽和は首を傾げた。
「いや・・
あのね・・
朔ちゃんが一世一代の
大勝負に出るっていうから・・
由宇ちゃんを預かったんだけど。」
「あ・・・やだ・・・
朔ちゃん・・・
先生に言ってたんですか。」
「ええ・・。
最初っから全部
聞いてたけど・・・。」
そういって中村先生は
くすくす笑った。
「起き上がれそう?」
「あ・・・はい。」
陽和はベッドの上に座った。
中村先生は紅茶を渡してくれた。
「たぶん・・・
驚いたショックもあると思うけど・・
朔ちゃんが『圧迫』したから
でしょうね。」
そういうと中村先生は
呆れた顔をした。
陽和は顔を赤くする。
「馬鹿よねえ・・・
いくら好きでたまらないからって
あの大男が陽和ちゃんのような
か弱い女子を力いっぱい
抱きしめたら・・・苦しいに
決まってるじゃない。
圧死するところだったわよね。」
圧死・・って。
陽和は朔のことを思い出して
くすくす笑った。
「それに・・・
陽和ちゃん・・・あまり
寝てなかったんじゃない?」
「え・・・?」
さすが・・・養護の先生だなと
陽和は思った。
「もしかして・・・
恋煩い・・・?」
「・・・。」
陽和はコクリとうなずいて
恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「・・・眠れなくて・・・
朔ちゃんのこと考えると
・・・つらくて・・・
自然と・・・涙が・・・。
あ・・・
そういえば・・・
朔ちゃんは・・・?」
本当は・・・
朔は・・カーテンの向こう側の
定位置のソファに座っていた。
中村先生からは
朔の顔は見えるが・・
陽和の角度からは見えない。
朔は近寄ろうとしたが
中村先生が目で制した。
目配せをして・・
朔に「静かにしてて」と
伝えた。
朔は中村先生が何か
企んでいることがわかり
苦笑いを返した。
「朔ちゃんは,今,
反省中。
向こうの部屋に
由宇ちゃんと一緒にいるわ。」
由宇は,保健室の
入口に近いところのテーブルで
絵を描いて遊んでいた。
中村先生は陽和の方を向く。
「・・朔ちゃんはね・・・。
ホント・・恋愛経験乏しいし,
抱きしめ加減も知らずに
圧死させそうになっちゃうくらい
不器用だけど・・・
陽和ちゃんを思う気持ちだけは
ほんとにまっすぐだと思うのよ?」
「・・・はい。」
「それだけは・・
疑わずに・・・信じてあげて
ほしい。」
「・・・・はい。」
陽和はまた・・
涙ぐんでいた。
朔のまっすぐな気持ちは・・
もう・・十分すぎるほど
伝わってきたから・・・。
「見た目はともかく・・・
行動は・・少々・・・
かっこ悪いかもしれないけど・・・。」
そういってくすくす笑う中村先生を
朔はじろっとにらんだ。
陽和はくすっと笑って・・・
でも・・また真面目な顔で
こういった。
「・・そんなこと・・ないです。
私にはもったいないくらいの
人です・・。
朔ちゃんは・・・。」
「・・・そう?
そりゃあ・・よかった。」
中村先生はほっとした顔で
向こう側の朔を見遣った。
「じゃあ・・・
朔ちゃんが帰ってきたら・・
ちゃんと・・伝えなきゃ・・ね?」
「・・・はい。」
中村先生はにっこり笑って
陽和の方を見た。
そして・・今度は
ちょっとだけにやっと笑って
陽和を見る。
「陽和ちゃんは,
・・・朔ちゃんの
どんなところが好きなの?」
「え・・?」
中村先生がちらっと
朔のほうを見ると
朔は顔を赤くして目を
大きくしていた。
「・・・・うーん・・
言葉にするのは・・・
難しいんですけど・・・。」
「うん。」
そういって,陽和は・・
小学生の頃の話を
し始めた。
「私・・・
3年生のときに・・・
ある出来事があって・・・
それから・・ずっと
朔ちゃんのことが気になって。」
朔は・・・
びっくりしていた・・・
「あの時」・・・陽和は
嫌がっていたわけじゃ
なかったのか・・・。
「ずっとずっと・・・
好きだったんです。
その後・・・
意識しすぎて
全然しゃべれなく
なっちゃったけど・・・
ずっと・・・
目で追ってました・・・
朔ちゃんのこと。」
「・・・そう。」
幼い二人を思い出して,
中村先生は懐かしそうに笑った。
朔はあのころのことを
思い出して・・・
少し後悔していた。
早く・・・気持ちを
伝えたら・・・
よかったなあ・・・。
「5年生のころ・・・
朔ちゃんから・・・
陽和ともっとしゃべりたいって
言ってもらって・・
・・・すごくうれしくて。」
朔は・・・顔が
綻んで・・仕方なかった。
あのときの・・・
5年生の朔が聞いたら・・
飛び跳ねて喜ぶだろうな。
「でも6年生になると・・
朔ちゃんが私のこと
好きだなんて・・
そんなわけないって
思っちゃったんです。」
「どうして?」
「・・・うーん・・。
朔ちゃんが話しているのを
聞いて・・・
たぶん・・・
勘違いだったんでしょうけど。」
「そう。」
朔は・・・何のことか
ピンと来なかったけれど・・
そんな理由があったのか・・・
と思った。
「6年生のころ・・・
告白されたんですけど・・
びっくりして・・
返事ができなくて・・・
朔ちゃんはそのまま
転校しちゃって・・・。」
「ああ・・・。
そうだったのね。」
「でも・・私・・・
朔ちゃんが引っ越すなんて
知らなかったんです。」
「え・・・そうだったの。」
「だから・・・
返事が・・できないって
わかって・・・
ずっとずっと・・・
後悔してました。」
「・・・・そう。」
中村先生はちらりと
朔の方を見た。
朔は気まずそうな顔をする。
「だから・・私・・・
ずっとずっと・・・
もし・・・今度
朔ちゃんに会ったら
あのとき・・
本当は好きだったんだって
伝えて・・謝ろうと
思ってきました。」
「そう・・・。」
「そして・・・
そのときに・・・
胸を張って朔ちゃんに
会いたいと思ったんです。
朔ちゃんに
『陽和,頑張ってるな』って
言ってもらいたくて・・・。」
朔は驚いていた・・・。
だから・・あのとき・・
陽和は・・泣いたのか・・。
「私・・・何か
つらいことがあったり
しんどいことがあったときには,
心の中で・・
朔ちゃんに話しかけていたんです。
『朔ちゃん・・私
がんばれてるよね?』って。」
「まあ・・・。」
朔は・・・自分の頬に
熱いものが流れ落ちるのを
感じた。
陽和は・・・そんな風に
自分のこと・・
思ってくれてたんだ・・・。
「だから・・・私・・・
あまり・・意識してなかったけど・・
ずっとずっと
朔ちゃんのこと・・・
思ってきたのかもしれません。」
「え?ずっと・・・?」
「・・・はい。」
中村先生は驚いた。
13年の片思いをしていたのは
朔だけじゃなかったのだ・・。
・・・というか・・・
片思いじゃ・・
なかったじゃないの。
ホントに・・・
似た者同士なのね・・・。
二人は・・。
「私・・・去年・・・
百戸保育園に赴任する前に・・・
ここにいる朔ちゃんを・・
見かけていたんです。」
「え?そうだったの?」
朔もカーテンの向こうで
驚いていた。
「・・・はい。
あ・・・でも・・・
そのときは・・
朔ちゃんってすぐに
わからなかったんですけど・・・。
なのに・・私・・・
心を奪われてしまって・・・。
その後・・・それが
朔ちゃんだって気が付きました。
そのときに・・・
もう・・・完全に・・・
あのころの気持ちが・・・
戻ってきちゃって・・・。」
「・・・そっかあ。
恋に落ちたのね?」
「・・・うーん・・でも
久々すぎて・・
しばらくよく
わかりませんでした。
でも・・心の中で
ちょっとびっくりして・・・
『ああ・・・私は・・・
やっぱり・・・朔ちゃんじゃ
ないと・・・ダメなんだ。』って。」
「・・・そっか。
陽和ちゃんにとって・・・
朔ちゃんは・・・運命の
人なんだね。」
「・・・はい・・・。
朔ちゃんは・・・
ずっとずっと私の・・
ヒーローですから。」
・・・朔は・・・
顔を赤くして・・・
うつむいて頭を抱えていた。
・・・陽和・・・・
わー・・・俺・・・
もう・・・やば・・いな・・。
「朔ちゃん!見てみて!」
由宇が出来上がってきた
絵をもって朔の方へ
走ってきた。
「え?」
陽和は驚いて声を上げた。
「さ・・・朔ちゃん・・・
い・・・いるの?」
「あ・・・・。」
朔はしまったという
顔をして・・・
・・・そっとカーテンから・・
顔をのぞかせた。
「・・ごめん・・。」
「え・・・朔ちゃん・・・
いつから・・・い・・たの?」
「・・・ごめん・・・。
最初から・・・。」
陽和は顔を真っ赤にして
うつむいた・・。
「よ・・・よかった・・・
陽和が・・無事で・・。」
「え・・・?」
そういった朔に
中村先生は笑った。
「そうよねえ・・・
朔ちゃん,さっき
陽和ちゃん抱えて・・
真っ青な顔してたもんねえ・・。」
「はあ・・。」
陽和はまた顔を赤らめて
・・・言った。
「あ・・・ありがとう・・
朔ちゃん・・・
お・・重くなかった?」
「え?
あ・・はは。
大丈夫。全然・・
陽和・・・軽いし・・・
・・・というか・・
心配で心配で・・・
それどころじゃなかった。」
そうさらっと言ってのけた
朔の愛に・・・
陽和は・・また・・
照れてしまった。
陽和はちょっと目を
うるませて,恥ずかしそうに
微笑んだ。
「さて・・・
由宇ちゃん,先生と一緒に
ご飯食べに行こうか?」
「うん!」
「え・・・
先生・・・?」
「あ・・・大丈夫よ。
外側から出られるから。
カギはこれ。はい。
他のところを締め終える前に
出れば,セキュリティーも
大丈夫だし。」
「あ・・・はあ・・どうも。」
「まあ・・・ゆっくり
話してなさいよ・・2人で。」
中村先生は,
駅前のファミレスにいるわ
と言い残し,朔の肩を
ポンポンっと叩いて
由宇の手を引いて保健室を出た。