朔旦冬至 さくたんとうじ ~恋愛日和~
次の週の金曜日。

今日も,朔と由宇は
駅前で陽和と
待ち合わせしていた。

「ひよりせんせい!」
「陽和!」

2人に呼ばれて
陽和はにっこり笑って
駆け寄る。

「今日は・・
 どうしましょうか?」

朔と,肩車の上の由宇を
見上げながら
そう言った陽和に・・・

朔だけではなく,
なぜか由宇まで
少し照れた表情をした。

「今日は,
 のんびりしたいから・・
 ファミレスにしよっか?」

「うん。」
「うん。」

陽和と由宇は朔に
賛同した。



陽和と由宇は
並んでメニューを
見ながら選んでいる。

朔は・・・
ホントに・・・幸せな
光景だなと
感慨深く思っていた。


食事を終え,
朔と陽和が話に盛り上がる中,
由宇は少しウトウト
し始めていた。

「ねえ・・そろそろ・・。

 由宇ちゃん・・・
 眠そうだし。」


「あ・・・・そう・・だな。」

朔は少し名残惜しく思いながら
由宇を背負って
店を後にした。



帰り道。
朔は由宇を背負いながら
歩を進めていた。

 本当は・・・もう少し
 陽和と・・話・・・
 したかった・・なあ・・。

そんなことを
ちらっと感じながらも・・
園児の由宇を連れて
出かけられる時間には
限界があることも・・・
朔は承知していた。

「ねえ・・・朔ちゃん。」

「ん?」

陽和は前を向きながら
つぶやく。

「やっぱりさ・・・
 ・・・夜・・・
 こうやって出歩くのは・・・

 由宇ちゃんには負担だし,
 よくない気がするんだよね。」

「・・・・陽和。」


確かに朔はそれも
少し感じてはいた。

だけど・・・・
・・・陽和とこんな風に
過ごす時間もまた・・・
自分にとっては
かけがえのないもの・・・

・・・手放したくない時間だ・・。


「・・・夜・・・外食は
 ・・・やめようか・・・。」

「・・・・。」

陽和にそう言われると
朔は返す言葉がない。

・・・確かに・・・
由宇のことを考えれば
それがいいのかも
しれないけれど・・。

「なあ・・・陽和?」

「・・・ん?」

「陽和がさ,
 由宇のことを考えて
 くれるの・・・
 すごい・・うれしいよ・・。

 だけど・・・俺・・・
 ・・・その・・・

 由宇のことはホントに
 ホントにホントに
 大切なんだけど・・

 陽和と・・・
 ・・・ちょっとでも・・・
 一秒でも長く
 一緒にいたいのも・・・
 ・・・本音・・・
 ・・・・・・だったり
 するんだけど・・・。」

そういって陽和の方を
見る朔に陽和は少し
困った顔で返した。

「あ・・・うん・・あの・・。」

「・・・ごめんな。
 俺・・・わがまま
 ・・だな。

 陽和のこと・・・
 困らせちゃってるな・・・。」

「朔ちゃん・・・・。」

朔のその切なそうな表情に
陽和は胸が締め付けられる
思いがした。

「・・・うん。
 そうだな。

 陽和の言うとおりだ。

 由宇のこと考えたら
 夜は出歩かないほうがいいよな。
 園児には無理させてる・・
 ・・もんな。」

朔は少し愁いを帯びた
表情を浮かべた。


しばらく沈黙が続いた後,
陽和は意を決したように
朔を見上げた。

「ねえ・・・
 ・・朔ちゃん。」

「ん?」

「・・・あの・・・

 ・・た・・・例えば・・
 ・・よ?

 あの・・・さ・・・
 さ・・朔ちゃんさえ
 よ・・よければ・・
 ・・な・・・なんだけど。」


陽和は言葉を紡ぐたび
顔を紅潮させる。

「え・・?」

「あの・・・
 ・・・私が・・・
 作っちゃダメ・・かな?
 夕ご飯・・・。」

「え?」

「さ・・・朔ちゃんちなら
 由宇ちゃんを
 無理させずに済むし・・・。」

「・・・・。」

朔は最初,
陽和が言っていることが
よく理解できずに
ぼんやりしていた。

だけど,その意味が
わかったとたん・・・。

「えっ!?
 えっ!!?」

ちょっと慌てたような
仕草をした。

「あ・・・あ・・・。」

陽和は気まずそうな顔で
朔を見上げる。

「ご・・・ごめんなさい・・。

 あの・・ごめん・・・
 あ・・厚かましかった・・・
 ・・よね・・・

 わ・・・忘れて・・・。」

「わ!ちが,
 違う違う!

 違うって!!

 お・・・お・・俺・・
 
 ごめん!
 違うんだって!!

 わ・・・わ・・・
 
 ほ・・ホントにいいの?
 陽和・・・?」

「え・・・あ・・・。」

陽和は目を潤ませて
コクリと頷いた。

「まじで?
 わ・・・どうしよ・・・

 うれし・・・。
 
 わっ!!」

朔は驚きすぎて,
由宇を落としそうになった。

「わ!危ない!
 も・・・もう・・・

 さ・・・朔ちゃん・・・。」

陽和は困った表情をして
苦笑いを向ける。

「あ・・ごめん・・
 わ・・俺・・・

 ・・・・また・・・
 かっこ悪かったな・・・。

 でも・・・
 本気でうれしい。」

「・・・朔ちゃん・・・。」

陽和は安堵にも
喜びにも感じられる
表情で朔を見つめた。

「ホントに俺
 かっこ悪い。

 本当は・・・そう
 なればいいなって
 思ってたのに・・。

 さすがに・・・それは
 陽和に・・・
 ・・・言えなくて・・
 
 ごめん・・・。

 だめだな・・・
 勇気・・なくて・・
 俺・・・。

 情けないな・・。」


「・・・・朔ちゃん。
 ・・そんなこと・・
 ないよ。

 ありがとう。

 朔ちゃんは私のこと
 考えて言わないでいて
 くれたんでしょ。」

「・・・うん。」

「でも・・・
 ・・・・いいよ。

 言いたいこと・・・
 ・・言ってほしい。

 私・・・
 ・・頑張って・・・
 受け止めていきたい。

 朔ちゃんの・・
 思いに応えたい。」

「陽和・・・。」

朔は少しかがんで
陽和の目を見つめた。

「じゃあ・・・
 ・・・ちょっと
 こっちに来て。」

「ん?」

朔は手招きして
由宇を支えているのと
反対の腕のほうへ
陽和を呼んだ。

そして・・・
片手で陽和をぎゅっと
抱きしめた。

「・・・かっこ悪い
 俺だけど・・・

 陽和に・・・
 ・・呆れられちゃうかも
 しれないけど・・・

 陽和のこと・・・
 ・・・誰よりも・・・
 好きだから。

 ・・・嫌いに・・・
 ならないで・・な・・。」

「・・・朔ちゃん。」

それは情けない言葉では
あったかもしれないけれど
陽和にとっては
世界中で一番
心に響く言葉だった。

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