超能力者も恋をする
それから数日は、特に何も無く過ぎていった。
それでも心配してくれた先輩は、家から最寄りの駅からはいつも帰りが1人にならないように一緒に帰るようにしてくれた。先輩の気遣いがとても嬉しかった。


今日は朝から雨が降っていた。午前中は小雨だったが、昼過ぎからザーザーと本降りになっていった。

少し残った仕事を片付けて家路についた。帰りの電車の中で先輩からのメールを読み返す。


『ごめん。今日は用事があって一緒に帰れない。残業はなるべくしないで、気をつけて帰るように!』

先輩らしい絵文字も何もない文字だけの文面。何だか父親みたいな口調で思わず笑ってしまった。高校生の娘を心配する父親みたいな。

駅につき、傘を広げて歩き出す。今日は隣が空いているといつもより風が冷たい気がする。
家まで15分もすれば着く道のりは、先輩とはあっと言う間に着いちゃうけれど今日はやけに長く感じる。
ここ一週間はずっと一緒に帰っていたので、1人で帰る事は何だか寂しくなってくる。
今まで当たり前に1人で帰っていたのに、先輩と帰る楽しさを知ってからどうも欲張りになってしまったみたいで自分でも驚いたし、先輩と一緒にいるのが当たり前に感じてしまっている。
でも、加藤先輩とはただの先輩と後輩の関係なのに、そんな風に思ってもいいのだろうか?
(いいわけない!)
ダメダメと思わず頭を振った。
その事に気づいたら急に自分の行動が恥ずかしくなった。先輩からは恋愛感情とかは感じなく、きっと先輩は純粋に後輩を心配して同居話を持ち掛けたり、一緒に帰ってくれただけなんだと思う。
それを勘違いして思い上がって当たり前に思ってるなんてバカだ。

(彼女でも無いのに、一緒にいるのを当たり前に思っちゃったり、バカみたい…。)
「はぁー…。」
大きなため息が出る。
自分で言っておいて、「彼女でも無いのに」って言葉に胸がチクっと痛くなった。
そう、自分は彼女じゃない…。
ただの片思い…。

膨らんでた気持ちがガクッと一気にしぼんでいった。

ぶるぶると首を振って、ため息をついて、ガクッと落ち込みながら、はたから見たら滑稽だろうが、すみれは本気で悩みながら歩いて帰った。
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