赦せないあいつと大人の恋をして
思い遣り
季節はいつの間にか冬になっていた。綾は連日、仕事が忙しく残業する事も多くあった。
そんなある日、仕事が終わり、いつものように地下鉄の駅に向かっていた。でも何だか気分が悪くクラクラする。ここ数日、風邪気味だったせいだ。早く帰って薬を飲んで休もう。そう思った時、目の前がグラッと揺れて、私は意識を失った。
それから、どのくらいの時間が経ったのか……。
目を覚ました私は見慣れない天井と照明に、ここがどこなのか分からなかった。体を起こそうとしても動けない。オデコの上には冷たいタオルが乗せられている。
すると「気が付いた?」と聞き覚えのある声がする。
えっ? どうして菅田 龍哉が居るの? ここはどこなの? 無理矢理起き上がろうとすると
「無理だよ。三十九度の熱があるんだ」
「ここはどこなの?」
「俺のマンション」
「私、どうしてここに居るの?」
「きょう会社の近くに仕事で用があって、帰ろうと車を出したら、ちょうど地下鉄の駅に向かう君を見付けた。何だか様子が変だったから車を路肩に止めてガードレールを飛び越えて。そうしたら君が急に倒れてギリギリ間に合った。俺が抱き抱えたから頭はもちろん、どこも打ってない。名前を呼んでも意識もなくて、車に乗せて、この近くの内科に連れて行った。先生が往診中で、ここの住所を教えて、さっき往診して貰った。風邪と過労で熱が高いんだと思うって、解熱剤と風邪薬をくれた。二、三日経っても熱が下がらないようならインフルエンザかもしれないから、もう一度受診するように言われた。とにかく冷やして熱を下げるようにって」
「私、帰ります」
ここに居る理由はない。
「駄目だ。今は無理に動かさない方がいいと言われた。熱が下がったら送って行くから。俺の言う事を聞けよ」
何で、あんたなんかの言う事を聞かなきゃいけないのよ……。
「一人暮らしなんだろ? 何も出来ないだろ。実家になら送って行くよ。どうする?」
「実家は無理よ。兄嫁が、お腹に赤ちゃんがいるから……。インフルエンザだったら、うつす訳にはいかない。風邪も……」
そう。先週、母から聞いたばかり。お兄ちゃんも喜んでるって。
「だったら、ここに居ろよ。女としての君を傷付けたのは確かに俺だ。だけど一人の人間として君を大切にしたいと思ってる。それくらいの思い遣りの気持ちは持ってるつもりだ。君がどう思おうと」