赦せないあいつと大人の恋をして
あいつ
結局私は、あの男のマンションのあいつが使ってるベッドに横になったまま。すぐそこに見えている玄関まで、立って歩いて行く事も出来そうにない。三十九度の熱に頭も天井もグルグル回っているように感じる。
「出掛けて来るから、ちゃんと寝てろよ」
そう言って、あいつは出て行った。
絶対に眠ったりしない。意地を張ったところで、熱に浮かされて、体中が痛くて力すら入らない。そのまま吸い込まれるように眠っていた。
ここは、どこだろう……。緑の綺麗な景色の中を歩いている。私の前には、誰だろう。男性がどんどん歩いて行くのが見える。
「待って」
声を掛けたら振り向いたのは、お兄ちゃん。
「綾、早く来い」
そう言うと私を置いて行ってしまう。
私は何とか追い付こうと急いで歩いて転びそうになった。
「綾、大丈夫か?」
私を抱えてくれたのは、あいつ。
お兄ちゃんは何処なの? と思ったところで目が覚めた。
夢……。
義姉の妊娠を聞かされて、少なからず私は動揺していた。結婚している夫婦の間に、赤ちゃんが出来るのは当然の事。しかも仲の良い兄夫婦なら、なおさらのこと。
この気持ちは嫉妬? 大好きなお兄ちゃんの赤ちゃんを身ごもった義姉に対して?
そんなことない。心から祝福している。生まれて来る子は私にとっても甥っ子か姪っ子なのだから。
でも、この寂しさは何? 私は一人だから……。独りぼっちだから……。恋愛感情なんてもの、何処かに置いてきてしまったから……。
そんな事を考えていたら玄関のドアが開いて、あいつが帰って来た。何だか、たくさんの荷物を床に下ろしてベッドに近付いて来る。
「起きてたのか? 眠れない?」
「ううん。少し眠ったから」
「そうか。ちょっと待ってて」
キッチンで何かを始めてトレイで持って来た。
「薬を飲むのに何かお腹に入れた方が良いと思って、レトルトのおかゆ買って来た。食べられそうか?」
「ううん。いい」
「少しだけでも食べろって」
私の上半身を起こして背中に大きなクッションを入れてくれた。
「ほら、食べて」
スプーンに少しおかゆを乗せて私の口に運んでくれる。
仕方なく二口食べた。でも
「もういい」
「そうか。美味しくない?」
そう言うと男はおかゆを食べ始めた。
「結構、いけるけどな」
「風邪、うつるのに……」と言うと
「お前の風邪なら構わないよ。うつしたら治るって言うし」