赦せないあいつと大人の恋をして
ギャップ
ペットボトルのキャップを開けようとしたけれど力が入らない。
「あぁ、ごめん。かして」
あいつはキャップを外して渡してくれた。
カラカラに渇いた喉に、体に、スポーツドリンクが吸い込まれて行くようだ。
「美味しい。こんなに美味しいなんて思ったの初めて」
「汗かいたからな。あぁ、熱、計ってみようか。はい」
体温計を渡された。一分経ってピピッと鳴り出した。
「かして……。三十八度三分か。少し下がったけど、まだ高いな。朝まで、まだ時間があるから、ゆっくり眠るんだ。さぁ、俺も寝よう」
「どこで?」
「向こうのソファーで寝るから余計な心配するな。あぁ、トイレそこだから」
「うん」
「一人で行ける?」
「大丈夫。随分楽になったから」
「そうか。じゃ、おやすみ」
あいつは、また少し照明を落として、どこからか毛布を出してソファーに横になった。まもなく寝息が聞こえて来た。
さっきまで仕事をしていたし、私に気を遣って買い物に出たり、疲れさせてしまったんだ……。
そう思いながら、まだ熱もあった私は、いつの間にか眠っていた。
少し眠って、また目が覚めた。まだ外は暗いようだ。
そういえばメイクしたままの顔が気になってベッドの上に起き上がった。天井も目も回っていないようだ。私はトイレに立った。そのついでに、バッグからメイク落とし用のコットンと携帯を出してベッドに座ってメイクをさっぱり拭いて落とした。
携帯はと見るとメールが一件。秘書課の御局さまから……。
『体調が良くないように見えたけど大丈夫なの? しっかり治して月曜日には元気な顔で出て来てね』
何かあった時の為にアドレスや番号はお互い知っていたけれど。
秘書課の誰にも風邪気味だという事も話してはいなかった。
仕事は完璧で自分にも他人にも厳しい。怖いイメージしか持っていなかった御局。優しいところもあるんだ。なんだか嬉しかった。人は見た目じゃないんだ。勝手に作り上げていたイメージは間違っていた。朝になったらメールの返事を入れておこう。
その時、あいつが寝返りを打った。
こんなに細かく気遣ってくれるなんて思わなかった。
でも、あれはイメージなんかじゃない。この男に乱暴されたのは紛れも無い事実。
その大き過ぎるギャップに、私の頭の中は混乱していた。