赦せないあいつと大人の恋をして
小さな棘
四年半が経った今でも、決して忘れてしまった訳ではない。いつも心の片隅に小さな棘のようなシコリがあって時々私を刺す。何年経っても、何十年経っても、消える事のない痛み。
ベッドに座ったまま、あいつの方を見た。ここからは顔は見えないけれど、きっと優しい穏やかな顔をして眠っているんだろう。あの時の男と、ここに居る男が別の人間なら、もっと気持ちも癒されて傷も治っていくのかもしれない。
そんな事を考えていたら眠れなくなってしまった。さっきよりも熱も下がっているような気がする。その分、余計に私とあいつの現実を突き付けられる。
これだけ性の情報が氾濫している今、私の考え方が古過ぎるのだろうか?
女子中学生が、ご飯を奢ってくれた知らないおじさんに、お礼にと簡単に体を許す世の中。一度くらい、どうって事ないと平然として言う彼女たちに何を言っても無駄なのだろう。いずれ、そのツケが回って来るなんて、今は考えてもいないだろうけれど……。
混乱した頭のままで横になった。頭痛が酷くなったようだ。
*
明るいグレーのカーテンから柔らかい陽射しを感じる。朝が来たのを教えてくれている。私はそのまま、もう少し眠ろうとした。でもやっぱり眠れずに一時間ほどが経った。
ソファーの方で音がする。あいつが起きたようだ。歩いて近付いて来るのが分かる。
私は眠っている振りをした。そっと私の様子を見てトイレに立ったようだ。その後キッチンで何かしている。間もなくコーヒーの香り。きっと眠いだろう。目を覚ますために入れたようだ。次に別のドアが開いて閉まった。シャワーの音がする。昨夜は仕事を済ませて、そのまま眠ったから。
私は起き上がって昨夜のスポーツドリンクの残りを飲み干した。
「あぁ、起きてたのか」
バスルームから出て来たあいつが言った。
「うん、今。昨夜はありがとう。マンションに帰るから」
「お腹、空いてないのか? 何か買って来ようか?」
「ううん、いい。一応、女だし帰って自分の食べたい物くらい作れるから」
「充分、魅力的だよ。スッピンも綺麗だ。だからって自分のした事を弁解する気はないけど。俺の周りには、男と寝る事を何とも思わないような女しか居なかった。あぁ、言い訳してるな。送って行くよ」
あいつは寂しそうに笑った。