赦せないあいつと大人の恋をして
境遇
「この近くで友達が個展をやってて見に来たの。ここを通り掛ったら、あの時のマンションだって気付いて。見ていたら監督さんが中も見ますかって、入居希望者だと思われたみたいで……」
「元さんは、あの時の別嬪さんが来てるけど、このまま帰していいのかって俺に電話をくれたんだ。慌てて飛んで来た」
「…………」
こんな所で二人だけにされて、どうしていいのか分からない。
「風邪は治った?」
「うん。あぁ、そうだ。医療費、実費で立て替えてくれたんでしょう?」
「何だ。そんな事?」
「だって保険証あるのに実費で払って貰う訳にはいかないから」
「そんなの、どうでも良かったのに」
「どうでも良くない」
「分かったよ。後で連れて行くから」
「うん」
「どこからどこまで、キチンとしたお嬢さんだな」
「どういう意味?」
「そういう意味だよ」あいつは笑っていた。
「バカにしてるの?」
「違うよ。褒めてるんだよ。あんたみたいに清純で品の良いキチンとしたお嬢さんには縁が無かったから」
「…………」
「ところで、こんな所に居て恋人が心配しないか?」
「恋人?」
「いつかのワインバーで、一緒に居る所を見た。背の高いイケメンで、あんたの事、すごく大切に想っているのが良く分かった」
「ワインバー? ……。お兄ちゃんの事?」
「えっ? お兄ちゃん?」
「あの後、あのワインバーには、お兄ちゃんと一緒に一度行っただけよ」
「すごく良い雰囲気だったから、てっきり恋人同士なんだと思った」
「そうね。小さい頃は、お兄ちゃんのお嫁さんになりたいって言ってたみたい」
「ブラコンか?」
「そうかもしれない。お兄ちゃんを超える人に、きっとまだ出会ってないのよ」
「カッコイイ兄貴を持つと妹も大変だな」
「あなたは? 兄弟いるの?」
「俺も兄貴が一人だけ。男だけの兄弟で全然色気ないけどな」
「でも、その分、お母様が若々しくされてるんじゃない?」
「お袋は、俺が中学生の時、死んだんだ。ずっと心臓が悪くて」
「えっ?」
「いつも俺の周りに居たのは建設会社のガサツな男ばかりだった。だから俺は女を見る目がないんだと思うよ。免疫なかったからさ」