赦せないあいつと大人の恋をして
それぞれの痛み
「そうだったの……。ごめんなさい。私、知らなくて……」
「いいよ。さっきの元さんの奥さん、凄い美人なんだよ。信じられないだろ?」
「そんな……」
「元さんは美人は一度見たら忘れないんだってさ。そう言ってた。だから、あんたの事も良く覚えてたみたいだよ」
「別に私……綺麗じゃないし……」
「綺麗だ。俺には眩し過ぎるくらい綺麗だ。……なのに傷付けた」
「いつも……あんな事、してたの?」
「女なんて向こうから寄って来た。何人の男と寝ようが平気な女ばかり」
「そんな女ばかりじゃないと思うけど……」
「あんたみたいな女もいるんだよな。初めて知ったよ」
「今でも、思い出すと怖くなるの……。小さな棘がいつも私を刺すの。忘れてしまいたいのに駄目なの。看病してくれたあなたとあの男が別人だと思いたいのに……」
「本当にごめん。許されるなんて思ってないよ」
「絶対に許さない。許してなんかあげない」
「あぁ、それでいい。俺みたいな奴、許す事ない」
「…………」
「送って行くよ。診て貰った内科。今から行けば間に合うから」
土曜日も十二時半まで受け付けて診療してくれる内科だと言った。私は保険証を出して精算して、立て替えてくれていた一万円を返した。
「ちょっと遅くなったけど昼飯付き合わないか? きょうは、おかゆじゃないから」
「あの時のおかゆも美味しかった。食欲なかったから」
「分かってるよ。あんなに熱があってモリモリ食べられたら正直引くかも」
「そうね」私は思わず笑っていた。
「笑ってる顔は、もっと綺麗だ。あんたから笑顔を奪ったのは俺だよな」
「…………」
そうよ。あれから私は、あまり笑わなくなっていた。
「後悔しても遅いよな。今さら何を言っても……」
「…………」
そんな顔されると、許してしまいそうになる……。
あいつは小さくため息を吐いて車を出した。連れて行かれたのは明るい雰囲気の喫茶店。
「いらっしゃい。珍しいわね。きょうは美人とランチ?」
「そういうこと。俺、いつもの。あぁ、何にする?」
「いつものって?」
「私の特製オムライスよ。亡くなったお母さんの作ってくれたオムライスと同じ味なんだって」
「ママ、余計な事、言わなくていいんだよ」
「じゃあ、私も同じ物で」
「はい。お母さんのオムライス二つね。すぐ作るからね」笑顔が優しい。
運ばれて来たオムライスを黙々と食べる姿が何だか痛々しかった。