赦せないあいつと大人の恋をして
女神
あいつは、お母さんの愛情を求めてる。ずっと心臓が悪かったと言っていた。甘えたい年頃に思いっきり甘える事さえ許されなかったんだ。
たくさんの女の人と付き合ったからって、彼の心の渇きは潤せないだろうに……。
でも、だからって、して良い事といけない事がある。
マンションまで送って貰って別れ際、あいつの目が寂しそうだった。
だから……。だから何?
私には何も出来ない。
あいつの母親の代わりにでもなれるというの? そんな事が出来る訳が無い。
もしも、あいつの母親だったら……。どんな罪を犯しても、あいつを信じていられるんだろうか?
私には無理だ。……だって私は当事者。あいつが無実じゃ無い事を唯一知っているのだから……。あいつが私にした事は間違いなく犯罪。私が告訴すれば……。
でも……。
母親のような気持ちで、あいつを抱きしめてあげる事が出来たら、あいつの心の傷を癒してあげられるのかもしれない。
何を馬鹿な事、考えてるの?
土曜日も日曜日も、そんな事ばかりを考えて休日は終わった。
そしてまた月曜日が来て……。
仕事帰り、会社を出て少し歩くと白い車からあいつが降りて来た。
「送って行くよ」
「いい」
「仕事で近くに来てたんだ。そろそろ帰る時間だと思ってたら姿が見えて。この辺、悪い奴が多いから……」
「あなたに言われたくない」
「そうだな。俺に言えるセリフじゃないよな。でも、とにかく乗れって」
腕を掴まれて車に乗せられた。
私は無言のまま窓の外を見ていた。
あいつは時々、何か言いたそうに、こっちを見るけれど何も言わない。
お互い無言のままで私のマンションに着いた。
「ありがとう」
送ってくれた事にだけ、お礼を言って車を降りる。
そんな事が時々あった。どういうつもりなのか私には理解出来ないけれど……。
私をあんな目に遭わせておいて今更、騎士(ナイト)にでもなったつもり?
あの事さえ、あの日の事さえ、私が忘れてあげられたら……。女神にでもなったように、あいつを包み込んであげられたら……。
やっぱり無理だ。私はそんな立派な人間じゃない。許せないものは、どこまで行っても許せない。
だけど、あいつを救ってあげられるのは、もしかしたら私だけかもしれない……。