赦せないあいつと大人の恋をして
手作りの披露宴
 新郎の学生時代の無二の親友ですと自己紹介した男性の司会進行で始まった。周りを見渡しても新郎新婦の家族と極親しい友人の集まりのようだ。

 決して派手ではないけれど二人の温かな人柄が表れているような楽しい宴。気持ちの通い合った、みんなに祝福される手作りの披露宴も素敵だと思う。

 神父さんも牧師さんも神主さんも僧侶もいない。

 きょうから夫婦となった新郎新婦の誓いの言葉が胸を打った。本当に幸せになって欲しい。会場に居る全ての人が心から願っていたと思える素敵な誓いだった。

 それから祝福のスピーチが続いた。新郎新婦の会社の上司や親戚の方々、それぞれが心温まるものだった。

 そして司会の方から
「では続きまして……。きょうは遠く岡山から、お二人を祝福するために駆け付けてくれました。新郎の会社の同期であり、奇しくも新婦の大学の先輩でもある川村雅也さん」

 そうなんだ。知らなかった。やっぱり世間は狭いんだと妙に感心して聞いていた。新郎新婦の二人共と縁のある先輩ならではの楽しいスピーチだった。

「それでは、しばらくお食事やご歓談の時間とさせていただきます」と司会の声。

 先輩は、そのまま私たちの席に顔を出した。
「久しぶり。元気だったか?」
 爽やかな笑顔は昔と変わらない。

「先輩こそ、今、岡山なんですね。遠くからご苦労様でした」と麗佳。

「結婚するって電話を貰って、どんな人だって聞いたら、優菜だっていうから驚いたよ。本当に世間は狭いもんなんだな」

「先輩はまだ独身ですか? それとも素敵な奥さまがいるとか?」

「いや。転勤ばかりで、なかなか縁はないようだな。まだ一人だよ」

「じゃあ、私、岡山に行ってあげますよ」と麗佳。

「いいねぇ。じゃあ、洗濯とか掃除とか頼もうかな?」

「えっ? 私、家政婦じゃないですよ」
 と麗佳がちょっと膨れた。

「君は元気だったのか?」
 と先輩は私に聞いた。

「はい。先輩こそ、お元気そうで」私は答えた。

「あぁ。じゃあ、食事してくるかな」
 と先輩は席に戻った。

 学生時代あんなに憧れていた先輩に会っても、もう胸はときめかなかった。懐かしい想いはあっても、昔の友人の一人として今は普通に向き合える。私も、やっと卒業出来たのかな。二十歳の頃の打ち明ける勇気すらなかった片想いの恋愛から。苦しんだ日々も今となっては胸の中に輝く小さな宝石のように大切に思える。

 優菜が気分が悪くなったりしないか心配しながら二時間を過ごした。お酒も乾杯のシャンパンだけいただいて後はジュースやウーロン茶で。

 純白のドレスで幸せそうな笑顔の優菜は本当に輝いていた。
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