赦せないあいつと大人の恋をして
憧れていた先輩
 心配していた優菜の体調も一度新郎と席を外しただけで大丈夫なようだった。私が余計な心配などしなくても優菜は、もう一人じゃないんだ。傍に居て優菜を優しく気遣う素敵なご主人が居る。なんだか羨ましい。私には珍しく、そんな事を考えていた。

 披露宴も無事、お開きとなって新郎新婦に送られて招待客は帰って行く。麗佳と私は、ほとんど招待客が帰られてから席を立った。

「きょうは、ありがとう」
 美しい笑顔の優菜。

「素敵なお式だったわよ。優菜、元気な赤ちゃんを産んでね」

「ありがとう。あぁ、綾、先輩と連絡先交換した?」

「えっ? ううん。してないけど」

「携帯の番号くらい教えてあげたら? 先輩、綾の事、気にしてたから」

「ううん。もう学生時代の気持ちは封印したから」

「本当にいいの?」

「いいのよ。これで良かったんだと今は思えるから」

「そう。綾がそう言うのなら分かった。気を付けて帰ってね」

「ありがとう。じゃあ、くれぐれもお幸せに」

 それから麗佳と話すのを待って私たちは会場を後にした。外に出るとタクシーを待っている先輩と会った。

「なかなかタクシー来ないな」

「あっ、私はお先に」と麗佳。
 道路の向こう側に四駆のワゴンが停まって運転席には若い男性が乗っている。

「麗佳、彼いないって言わなかった?」

「結婚の予定がないって言っただけよ。こんな時、迎えに来てくれる男の一人や二人居るわよ」

 麗佳らしくて私は思わず笑ってしまった。

「駅まで送りましょうか? 先輩もどうぞ」

「いいわよ。遠慮しておく」

「俺も。右に同じ」と先輩も笑っていた。

「じゃあ、お先です」麗佳は四駆に乗って消えて行った。

 残された先輩と私。
「早崎。お前は、こんな時、迎えに来てくれる男はいないのか?」

「どうでしょう?」
 私は笑って誤魔化した。

「綺麗になったな。学生の頃も綺麗だったけど」

「先輩? お酒飲み過ぎてません?」

「ほとんど飲んでないよ。一度会社に寄って、すぐ岡山に帰るから」

「そうなんですか。日曜も忙しいんですね」

「当分、仕事が恋人だからな、俺は。早崎は早く良い人を見付けろよ」

「はい。そうします。先輩」笑顔で言えた。

 タクシーが捕まって先輩と駅まで乗り合わせて別れた。憧れていた先輩と普通に話せる日が来るなんて、あの頃は夢にも思わなかった。



 優菜の幸せな笑顔を思い出してマンションに帰っても温かい余韻が残った。結婚も良いものなのかもしれないと思い始めていた。私には画期的だったけど。
< 52 / 107 >

この作品をシェア

pagetop