赦せないあいつと大人の恋をして
新しい家族
 お腹の赤ちゃんが動いたと義姉は兄にメールを入れていた。それから一時間ほどして兄は急いで帰って来た。

「赤ちゃん動いたって本当か?」
 兄も心配だったのだろう。

「えぇ、動いたの。ねぇ、綾ちゃん」

「うん。動いたの。感動しちゃった」

「そうか。良かったよ。安心した」

 我が家の天使は生まれて来る前から、みんなを幸せにするようだ。生まれて来たら、きっと大変な事になるのだろう。

「あっ、忘れた」
 突然、兄が言った。

「何を忘れたの?」
 義姉が聞いた。

「書類を持って行く約束をすっかり忘れてた。綾、代わりに行ってくれないか? 隼人の会社だから俺が行くより綾が行った方が喜ばれるよ」

「ええっ?」
 そういう問題じゃないでしょう?
「持って行くだけでいいの?」

「あぁ。今日中に届ける約束だから夕飯食べてから頼むよ」

「分かった」

 夕飯をみんなで和気藹々と食べた。赤ちゃんの胎動を知って今夜はいつもより、おしゃべりも弾んだ。
 生まれて来たら、それこそ生活の全てが、この我が家の天使を中心に回って行くのだろう。家族が増える。それはとても幸せな事なんだと思った。



 食事が済んで私は隼人さんの店舗に届け物に行った。

「こんばんは」
 お店に入って行くと隼人さんのお父様が

「綾さん、わざわざありがとう」

 書類の入った封筒を渡すと

「隼人、今、食事に行っているんだ。そろそろ戻ると思うんだが……。そうだ。綾さん、隼人は近くの洋食屋に居るから行ってみてくれないか?」

「あぁ、はい。じゃあ、行ってみます。失礼します」

 店を出て、右に三軒目の人気の洋食屋さんだと教えられた。歩いて行くと、なるほど人気店なのは頷ける。家族連れやカップルが入り口のガラス戸を通して楽しく食事する風景が見える。
 ちょっと気後れしたけれど思い切って店に入った。隼人さんが、すぐに気付いてくれて

「綾さん、こっち」と呼んでくれた。
 二人用のテーブルに隼人さんは居た。向かいの席は空いている。
「座って」
 そう促され向かいの席に座った。

「綾さん、食事は?」

「さっき実家で済ませました」

「それで家に来るよう頼まれたんだ」
 隼人さんは笑顔で言った。

 テーブルには美味しそうなオムライス。隼人さんは、いつも幸せそうに食事する。

 その時、何故だろう。私の中で何かが大きく動き出していた……。
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