赦せないあいつと大人の恋をして
お見合いのけじめ
 隼人さんの心から尊敬出来る人間性に触れて、友達でいられる事に感謝した。

 それでも私は、あいつの傍に居たいと思っていた。あいつが私にした事は最低だ。それも良く分かってる。だけど、あいつの寂しさや心に負っている傷を癒せるのは私しか居ない。

 私が、あいつの傍で幸せになれるのなら……。そうすれば、きっと心から幸せだと感じてくれるに違いない。今は、ただ信じている。信じたい。



 その翌日、私は兄に連絡を入れて呼び出した。隼人さんとの結婚をいつまでも期待させておく訳にはいかなかったから。私の電話の声から何かを察したのか

「きょうは飲みに行くか?」

 久しぶりに居酒屋に連れて行かれた。
 私は昨日、隼人さんに、お見合いの話を断った事を話した。そして、あいつの存在も……。

「あの隼人を振ってまで、一緒に居たい奴なのか?」

「隼人さんなら、いくらでも素敵な人が現れる。きっと幸せになれると思うの。でも、あいつは私じゃなきゃ駄目なの。私が幸せにしてあげないと……」

「お前、いつの間に……。綾も、やっと大人になったって事なんだな」

「そうかな……。自分では良く分からない」

「お前、綺麗になった。女神みたいに見えるよ。で、そいつは何してる、どんな奴なんだ?」

「父親の建設会社で働いてる。ちょっとひねくれた奴」

「綾は、そいつと一緒に居て幸せなんだな」

「うん。あいつには言いたい事、全部言ってる」

「それは気の毒に……」
 お兄ちゃんは笑っていた。
「あんまり虐めるなよ。そいつに同情するわ。親父には俺から話しておくから心配するな」

「うん。ありがとう。ごめんね」

「いいよ。気にするな。しばらくして落ち着いたら家に連れて来いよ。ちゃんと俺がテストしてやる。綾の虐めに耐えられる奴かどうか」

「もう、虐めてないってば。人聞き悪いじゃない」

 お兄ちゃんと二人だけで飲むのも久しぶり。でも大事な体のお義姉さんが待っている。遅くならない内に、お兄ちゃんを解放してあげた。マンションまでタクシーで送って貰って兄とは別れた。
< 67 / 107 >

この作品をシェア

pagetop