赦せないあいつと大人の恋をして
兄
あれから二ヶ月が経っても、私は実家に顔を出せずに居た。父や兄はともかく、母や義姉に何かを感付かれそうで怖かった。
恋愛をして本当に好きな人とそうなったのであれば、もっと堂々として、こんなに後ろめたい思いもしなくていいのだろうけれど。
そんな時、珍しく兄から電話があった。
「あぁ、俺。元気か?」
「うん。何とかね。仕事が忙しくて、ちょっと疲れてるけど……」
「ちゃんと食べてるのか?」
「最近は、お弁当とか簡単に済ませることが多いかな」
「そんなんじゃ元気出ないぞ。スッポン鍋でも食べに行くか?」
「私がスッポン駄目なの知ってるでしょう?」
「そうだったな」兄は電話の向こうで笑っていた。
「じゃあ、何がいい? 明日、美味しい物でも奢るから。都合は?」
「いいけど……」
たぶん定時で終わると思うからと言ったら会社まで迎えに行くよと言われた。
そして翌日、兄は本当に会社の出口の外で待っていた。仕事帰りの兄もスーツだし混じってしまえば、ここの社員に見えるかも。
「綾」
「うん」
そのまま二人で歩き出した。
「この近くに美味しい中華の店があるんだ」
「知ってる。でも高くて、とても一人じゃ行けないよ」
「だから綾にスタミナ付けて貰いたいから奢るって言ってるだろ」
「じゃあ、きょうは思いっきり食べよう」
そういえば、兄と二人だけで食事するなんて久しぶりだ。兄のような人が、もう一人居れば、すんなり恋愛出来そうなんだけどな。だからブラコンだなんて言われるんだ。可笑しくて笑ってしまった。
「どうした?」
「ううん。何でもない」
笑顔で答えた。笑うなんて久しぶりだった。
お料理は本当に美味しくて、お腹いっぱい食べられた。
「もう食べられない」
「それだけ食べられるのなら大丈夫だな」
兄は笑っていた。お勘定を兄がカードで済ませて外に出て
「飲みに行くか?」
タクシーを拾って着いたところは……。あのワインバー。ちょっとだけ足が竦んだ。お兄ちゃんと一緒なんだからと自分に言い聞かせた。
中華料理の後にワイン? と思ったけど、やっぱりここのワインは美味しい。つい飲み過ぎた。