赦せないあいつと大人の恋をして
愛おしい風景
 北風は、とても冷たくて、落葉を舞い踊らせながら吹き過ぎて行く。
 私が抱きしめていたはずなのに、いつの間にか龍哉さんの腕の中に居た。

「寒くない?」

「大丈夫。龍哉さんの胸あったかいもの」

「本当に風邪ひくよ。もう帰ろう」

「うん」

 龍哉さんの胸から頬を離して顔を見上げたら……。どちらからともなく自然に唇が重なった。
 初めてのキス……。二人の気持ちがお互いを求めて、やっと今一つになった証。

 一方的に……強引に……無理矢理なんて……。そんなのは恋じゃない。愛なんかじゃない。ただの……暴力。

 龍哉さんは、確かに間違っていた。それは事実。

 それでも私は、彼の全てを許そうと心に決めていた。自分でも気付かずに知らない内に彼を好きになっていた。
 ううん。龍哉を愛している。彼の傍に居たい。ずっと……。私が彼を癒してあげたい。優しく包み込んであげたいから……。

 唇が離れて……。彼は私のおでこにそっとキスした。

「綾、好きだよ」
 でもその声は冷たい北風に掻き消されていった。二人で手をつないで車まで帰る。

「龍哉の手、あったかい」

「そうか。綾の手は、すごく冷たいよ。大丈夫か?」

「龍哉が温めてくれるから大丈夫」
 つないだ手をそっと握り返した。

 助手席のドアを開けてくれて私が乗り込む。運転席側に回って座った彼はドアを閉めた。

「あぁ、寒かった。何か温かい物でも飲みに行こう」
 彼はエンジンを掛けて車は走り出した。

 私たちは、とても自然に、龍哉、綾と呼び合うようになっていた。まるでこれまでもずっとそうだったかのように……。

 喫茶店の駐車場に車を停めて二人で店に入った。暖かい店内は、すっかり冷えた体を温めてくれる。注文したカフェオレから立ち昇る湯気の向こうに龍哉さんが居る。それは今の私にとって愛おしい風景だった。
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