赦せないあいつと大人の恋をして

スーパーで

　綾は小さめにカットされた野菜をいくつかカートに入れる。普段からスーパーで買い物をして料理しているのが見ていて分かる。

「お肉が良い？　 お魚が良い？」

「どっちでも良いよ」

「じゃあ、きょうは鶏なべにしよう」

　きょうは……。次は……もうないと思うよ。綾の手料理。

「お豆腐どこかな？」
　店内を見渡して
「あった」
　綾は笑顔で言った。そんな事一つ一つが楽しそうだ。きっと良い奥さんになるんだろうと思っていた。
　誰の？　誰の奥さんになるんだろう……。

「龍哉？」

「えっ？　何？」

「もう。調味料あるのって聞いてるのに……」

「あぁ、ごめん。ないな」

「そうだろうと思った」
　綾は一番小さなサイズの調味料を何種類かカートに入れた。

「ビールか何か飲む？」

「いや。きょうはいいよ。綾を送って行けなくなる」

「タクシーで帰れるけど……」

「駄目だ」
　何故だか強い調子で言ってしまった。
「あぁ、ごめん。ちゃんと送って行くから」

「うん。ありがとう……」

　少しだけ綾の表情が曇ったような気がした。

「そういえば、まな板と包丁ある？」

「小さいのならあるよ。プラスティックのと果物ナイフ」

「うん。それで大丈夫だと思う」
　綾はいつもの笑顔に戻っていた。

「あっ。取り皿ある？　ちょっと深めの物が良いんだけど」

「それはないな」

「このスーパーなら、あると思うから。ちょっと待っててね」

　綾は店内を探しながら調理器具の売り場を見付けたようだ。

「あったよ。これでいいよね。それとこれも」
　手には、ピンクとブルーの少し大きめの小鉢とお玉を持って。

「うん。いいよ」

「後は、そうそう主食」
　綾は、お惣菜やお弁当の並ぶ売り場で
「どれにする？」

「綾に任せる」

「じゃあね。このハマチ、色がきれいで新鮮そう」
　そう言って、にぎり寿司のネタの違う物を二パック、カートに入れた。レジで精算して綾の選んだ食材の入った袋を車に積んでマンションに帰る。