赦せないあいつと大人の恋をして
幸せな証し
 龍哉は夢を見ていた。例えようがないほどの幸せな夢……。

 今まで生きてきて最高の女性に出会った。清楚で上品で仕事も出来る優秀な秘書。美人で抜群のプロポーション。センスも良い。何より男慣れしていない。清純そのもの……。

 綾……。
 愛しい綾を抱きしめていたはずだった。その滑らかな肌の温もりが……。感じられない。

 夢? いや、確かに現実だった。

 雪のように白い柔らかな肌に触れた。恥らう綾の可愛い声を聞いた。その手を伸ばしても触れることが出来ない……。

 龍哉はやっと目を覚ました。隣に居たはずの綾の姿がない。やっぱり夢だったのか? 愛しい綾を抱いた記憶は夢の中の出来事だったのか?

「綾……」
 声に出して呼んでみた。

「なに?」

 驚いて声がする方を見た。綾が近付いて来る。

「目が覚めたの? よく眠ってたわよ」

「夢だったのかと思った」

「なにが?」

「綾を抱いた事が……」

「もう。バカねぇ。寝惚けてるの?」
 綾は笑っていた。その笑顔は確かに俺の綾だ。

 起き上がってベッドの端に腰掛けていた綾を抱きしめた。
「俺の綾だよな? 俺だけの……」

「どうしたの? 子供みたいな事を言って。オカシイよ」

「目が覚めた時、全部夢だったのかと思ったんだ。綾みたいな良い女が俺のものになるはずないって……」

「私…… 幸せよ。龍哉を愛してる」

「綾……」

「何か着て。お鍋、出来てるわよ」

「うん。分かった」
 龍哉はやっと笑顔を見せた。


 初めての綾の手料理。小さなテーブルの上で温かな湯気が立ち上る。その温もりが龍哉には例えようがないほどの幸せな証しだった。

「美味しいよ」
 心からそう思った。幸せの味がする。

「そう。良かった」
 綾は微笑んだ。その笑顔は龍哉にとって確かに女神だった。
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