赦せないあいつと大人の恋をして
愛されて
 それから、もう少し龍哉の部屋で過ごした。テレビを見たり、おしゃべりしたり、そんな何でもないことが楽しいと思える。

 真っ直ぐに愛される事が、こんなにも幸せなんだと感じていた。時々、恥ずかしくなるくらい龍哉は真正面から愛してくれる。遊び人だったという噂から、もっとキザな愛し方をするんだと思っていた。



 明日は仕事。遅くならない内にマンションまで送ってくれた。

「仕事、明日からは早く終われると思うから迎えに行くよ」

「うん。きょうはありがとう。素敵な誕生日だった」

「それは俺のセリフだ。綾、愛してる」

「私も……」

 軽く唇に触れるキス。それだけで龍哉の体温を感じる。

「おやすみなさい」
「おやすみ」
 龍哉は私がマンションに入るのを見届けて帰って行った。

 部屋に入って暖房のスイッチを入れる。鏡のまえに座って自分の姿を見てみる。何か変わって見えるのかな?

 さっきまでの龍哉との時間が思い出される。指に光るリング。龍哉の愛の証し。私の体には優しく愛された感触がまだ残っている。龍哉が耳元で囁いた甘い言葉が聞こえる。『綾、愛してる』胸がキューンと切なくなる。今、別れたばかりなのに会いたい。

 そのままシャワーを浴びに行った。龍哉に愛された体が愛おしい。こんなところに……。小さな赤い花が咲いているのを見つけて恥ずかしくなった。

 経験値の低過ぎた私も……。龍哉に愛される事で少しずつ大人の愛というものを知るようになった。龍哉の気持ちに応えられる大人の女になりたい。彼の期待に反応出来る悦びも感じられるように……。それでも恥らう気持ちは消えてしまわないけれど……。


 三日後はバレンタインデー。何年か義理チョコを配った時期もあったけれど、今はその風習も完全ではないけれど姿を消した。初めての本命チョコを龍哉にプレゼントしよう。

 長い髪を丁寧に乾かしてジェルで肌を潤す。バスルームを出ると、すぐにベッドに入った。

 朝からの出来事を一つずつ思い出す。龍哉は私を幸せにする自信がないと言っていた。今まで誰も幸せには出来なかったと……。だから私から離れようと考えていた。

 渡された指輪……。龍哉の愛が私の指で輝いている。

 あんなに優しく愛してくれた。龍哉の肌の熱さを思い出していた。

 そういえば……。あの時も龍哉は言葉は乱暴だったけれど……。力で押さえ付けられたけれど……。行為そのものは酷いものではなかったのだと気付く。あの状況が褒められたものではなかったにしろ……。過去の過ちは許してあげよう。寛大な気持ちで……。

 ここまで来るのにはずいぶん長い時間が掛かった。軽蔑したし憎んでもいた。

 彼は反省して生活自体を変えた。だから今は許せる。辛い思いを乗り越えた分、強くなれたのかもしれない。別の選択肢もあったけれど……。あいつを包み込んであげられる大人になろうと決めた。

 そして私は……。そんな彼を愛した。龍哉は私に大人の愛を教えてくれた。

 この先、どうなって行くのかは分からない。やはり無理だったのだと別れる事だってあるかもしれない。それでも今の気持ちに正直に生きようと思う。龍哉を愛した自分を信じようと思っている。龍哉の愛が本物なのだと信じようと思う。

 体を合わせないと分からない事もあるのだと今は思える。龍哉に優しく抱かれた時を大切にしたい。

 私は、きょう生まれ変わった。二十八歳になったきょうが、大人の愛を知った大切な日。もっといい女になりたい。愛される女でいたい……。
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