妖しく溺れ、愛を乞え
 ホームセンターから出て、だだっ広い駐車場を横切って、うどん屋に入った。
 さすがに昼時だったから、混雑している。店員に聞くと、名簿に名前を書いてお待ちくださいと言われた。

「少し並ぶって」

「そう。メニュー選んでいれば良い」

「うん」

 こんなことを考えてはいけないけれど、別れた潤は人混みが嫌いだったし、混んでいる店に並ぶのも嫌いだった。深雪はこういうこと、平気みたい。穏やかで、のんびりしている。

「なに見ている」

「あ、うん。別に」

「疲れたか?」

「大丈夫。深雪は? 調子は……」

 あまり触れないでいようと思ったけれど、でも聞かないではいられなかった。

「……大丈夫だよ。心配するな」

「……うん」

 ほどなくして入店でき、席に着く。
 トッピングを選べる店で、深雪はこういうところに来るのが初めてだったらしく、驚いていた。

「どれ、どれが旨いんだ。おすすめは? 雅のおすすめ」

「かきあげと、あとなんだろう。エビ天とか?」

「おお、エビは旨いよな。玉子もいいなぁ」

 子供みたいにはしゃいでいる。
 あれこれ迷って、エビ天と温泉玉子をトッピングしていた。あたしはかきあげ。

「たまに家で天ぷらでもしたいよね。深雪、天ぷら好き?」

「わりと好き嫌いは無いんだよ。茄子の天ぷらなんか旨いな」

「じゃあ今度やろうかな。抹茶塩や梅塩なんかで食べてさ」

「野菜と魚介とか、自宅で天ぷらも良いな」

 天ぷら粉と、野菜と……油も買わなくちゃ。

「用具は?」

「……あ、天ぷら鍋なんか無いもんね」

「そんなもん無い」

 あるわけ無いよね。

「買うか。天ぷら鍋」

「えー……まぁ、あったら使うか」

「作ってくれよ、天ぷら」

「深雪の方が料理うまいじゃん」

「まぁな。でも雅の料理が食べたいんだよ」

「はいはい」

 お茶を飲み干した深雪は「満足」と言って箸を置いた。

「作ってあげるよ。天ぷら」

「おお、楽しみにしてる」

 あたしとしては、深雪の料理が食べたいんだけれどな。今度、リクエストしてみよう。

「さ、次は? どこへ行きたい?」

「ドラッグストア!」

 午後の元気充電完了。店を出ると駅へ向かった。お昼ご飯を食べたばかりだというのに、夕飯はなにを食べようか考えていた。


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