妖しく溺れ、愛を乞え
◇
長い1日とはこのことだ。
あたしはいま、2軒目のスナックで、ヒラヒラした衣装のお姉さんたちに囲まれながら、眠くて白目をむいている。
「春岡さん、寝てる……? 大丈夫?」
「あ、はい。だいじょうぶれす」
「ずっと現調に同行だったしね。お疲れさま……早く終わって欲しいわ」
初乃さんも苦笑いをしながらグラスを傾けている。中身はウーロン茶のはず。あたしもだけれど。
早く……帰りたい……眠いし疲れた……なんでこんな楽しくないお酒を飲まないといかんのだ。
時刻は22時を過ぎたところ。とはいえ、残業組を残して我々は18時半の予約で1軒目を始めているんだ。勘弁して欲しい。
視界が、歪む。もう限界が近い。疲労困憊。
「じゃあ…明日もありますし、お開きにしましょうか」
支店長が言った。この時ほど頼もしく見えたことは無い。支店長、すてき。
やっと終わる。帰るんだ……ホテルに。お布団が恋しい。
各々、トイレに行ったり飲み残しをまとめたりして、席を立つ。
店のスタッフから荷物を預かり、支店長と専務、部長に上着を渡して、煙草と酒臭さに顔をしかめながら、ヨロヨロと歩いた。ああ、疲れた。
「大丈夫ですか? お疲れですね」
お店のママが苦笑いしながらお水をくれた。
「ありがとうございます……うう、美味しい」
「またいらしてくださいね」
「はい。お世話になりました」
机の下とソファーに忘れ物が無いかチェックして(大体、携帯や煙草、鍵が落ちている)お店の出口に向かおうとした。